聖騎士団新首脳部作戦会議
とにかく今はいそがしい。
次はそれぞれの騎士団長をあつめ、勇輝が騎士団総長代理につくことを納得させなくてはいけない。
それとリカルドを副官につけることも。
難しそうだったのは反ヴァレリア派だった第五騎士団長マキシミリアン。
しかし、たった一つの条件つきで以外とあっさり承認してくれた。
「自分は敗軍の将だ、逆らう資格はない。
だがフォルトゥナート・アレッシィだけは自分に討たせていただきたい。
あの男は騎士道をけがした。
断じて許すわけにはいかぬ」
瞳に決意の光を宿し、マキシミリアンは燃えていた。
この中でフォルトゥナートともっとも親しかったのがマキシミリアンだ。
年齢も近く、ほんの数年ばかりマキシミリアンのほうが上にすぎない。
殺されたフリードリヒの屋敷で、よくテーブルをかこみ酒を酌み交わしたものだった。
剛直なマキシミリアンと柔軟なフォルトゥナート。
いずれは二人が聖騎士団を率いていくものと老将たちから期待されていたし、マキシミリアンもそのつもりであった。
だからこそフォルトゥナートが許せない。
あの男だけはこの手で討たねばならぬ。
そう決意をかためていた。
勇輝としても彼の要求に不満はない。
できるだけ望みはかなえてあげたいと思った。
「ベストはつくします。
けど相手がどう動くかわからない。
半殺しにしてグルグルに縛りあげた状態であなたに引き渡すことになるかもしれないけれど、それでもいいですか」
「戦場が意のままにならんのは百も承知だ。
たとえ死体の首をはねることになろうとも不満はない」
これで話は決まった。
他の人たちにもそれぞれ思うところはあるようだったが、国家存亡の危機である。
いやでも協力してもらわないといけない。
さあまだ一日は終わらない。
損傷した守護機兵の修復。
新型機兵の微調整。
失われたエッガイの補充。
敵を迎撃する戦場の選定。
戦術の検討。
敵情視察。
今すぐやらなくてはいけないことは山ほどある。
軍務省長官に返り咲いたヴァレリアも、上層部への挨拶回りをかねた意見調整のため大忙しだ。
敵はもう何日もかけずに聖都へたどり着くだろう。
敵将エンリーケ=カリスは傲慢、かつ非情な男だ。
きっと高笑いしながら聖都百万の命を根絶やしにするだろう。
絶対に負けるわけにはいかない。
軍本部でおこなわれている作戦会議は非常に真剣な熱気をはなつものであったが、数時間もたつとさすがに疲労の色がめだちはじめた。
議論百出していまだ終わらず。
つかれた脳みそはわずかな休憩のため、口から雑談を言わせた。
「しっかし、女子供が増えたのう」
どこか気の抜けた表情で文句をいうグスターヴォ元・騎士団長。
もう部外者になった、という意識がどこかにあるせいで、昔ほど強い反感は抱いていないようだ。
実際この場には若者がおおい。女もおおい。
まず総長代理の勇輝がいる。
第二騎士団長はベテランのジョルダンから娘のベランジェールに変った。
遊撃隊長ランベルトもまだ19歳、老齢のグスターヴォから見ればまだ子供の年齢である。
極めつけはルカだ。
まだ9歳。
こんな少女を戦場に出すなんて悪い冗談みたいだが、次の戦いでルカの《ネクサス》は絶対に必要だった。
当のルカはイスに座りながら足をプラプラゆらし、『このおじいちゃんだれだろー?』という顔でグスターヴォを見ていた。
「男たちはいっぱい死にましたからね」
勇輝はルカの頭をクシャっとなでながら、あまりにも無遠慮に言ってしまった。
北伐だけの話ではない。
グスターヴォが現役で、勇輝がまだこの世界にいなかったころからの話だ。
《呪われし異端者たち》は魔王を生みだすためにこの聖都で暗躍しつづけ、そのせいで悪魔は増加していた。
そして魔王戦役。
邪竜討伐。
北伐の失敗。
激戦のたびに男たちは血を流し、誇り高い生き様をしめして散っていった。
「順番が来たってことですよ。
きっとそれだけなんです」
多少は謙遜しながら勇輝はそう語る。
男たちよりもはるかに勇輝は活躍してきた。
だがそれでも聖騎士たちの命をかけた戦いぶりが無駄だったなどとはまったく考えていない。
彼らが託していった未来はたしかに自分たちが受け継いだと、そういう認識でいる。
もう勇輝は異世界からきた客人ではない。
聖都の、そしてこの世界の住人だと心から思っていた。
「フン」
グスターヴォはニヤけた笑みをうかべてドカッとイスに座りなおす。
「もうどうでもいいわい。
わしはただの『くたばりぞこない』だからのう。
先に逝った戦友たちに顔向けできるような最期であれば満足よ」
悟ったような老将の言葉を聞いて、ランベルトとマキシミリアンの表情がキリッと引き締まったものに変った。
この熱血漢たちにとって、『生き様』と『死に様』はほとんど同じ意味だ。
名誉ある死はむしろ望むところである。
「フー」
一方、副官となったリカルド・マーディアーは軽くため息をつき、『やれやれ』という表情で頭をボリボリかいている。
この不良中年は彼らほど純粋に騎士道を愛してはいない。
人間は生きていてこそナンボだろうと思った。
ベランジェールにいたっては眉をひそめて嫌そうにしていた。
こういう『死にたがりの男たち』は残された人の気持ちを考えない。
死なれる身としてはまったく冗談じゃないのだ。
六者六様、それぞれの脳内でそれぞれの想いが浮かぶ。
ルカは足をプラプラさせながら、『たいくつだなぁー』と思った。





