このクソみたいに低俗な世界を守るために
『こういう事態のため、我々はエフィのそばを片時も離れるわけにはいかぬ。
非常に困難とは思うが援軍は送れぬ、聖都周辺のことは君が単独であたって欲しい』
「わかった。そちらも気をつけて」
勇輝は自室でベッドに寝転んで念話をしていた。
念話の相手はエウフェーミアの十二天使、その七番『ユリウス』。
彼が勇輝に念話を送ってくるなんて初めてのことだ。
それだけでもただ事でない状況なのだと感じられる。
とうとう本格的にあのイグナティウスが行動をはじめた。
世界各国の大都市に魔王が出現。
すべての天使は救済のため世界各地に出撃。
聖イグナティウス本人は聖女エウフェーミアのおさえとして宇宙で牽制しあっている。
以上が全世界で今おこっている状況。
聖都は助けに来てくれる相手もなく、逃げる場所もなくなってしまった。
これからはじまる戦いに敗れれば、聖都百万の人間は死に絶えるしかない。
しかしこれでも他の都市に比べればマシな状態らしい。
聖都に魔王があらわれた時、すでに聖女が現地にいて天使も出撃の準備を万全にととのえていた。
だからあれほどの大災害にもかかわらず、たった一晩で解決した。
今回は大きく違う。
魔王が世界各地に同時発生するという未曾有の事態に天使は戦力を分散せざるを得ず、事件解決までの時間が長期化する恐れがある。
長期化すればするほど街は破壊され、犠牲者は増える。
「だから聖都のことは全部俺たちが自分でやる……。
いやそれだけじゃダメだ!!」
勇輝は勢いよくベッドから跳び起きた。
「俺たちが世界を助けに行くんだ!
それくらいの気持ちでないと!」
人類の九割を殺して作る理想郷なんて認められるわけがない。
頭の中をすっかり漂白して過去を消し去るから関係ない、イグナティウスはそう言う。
どんな犠牲をはらったとしても、知らなければ存在しなかったのと同じなのだと。
イグナティウスの管理する世界に生きるもの。
つまり人類の《間引き》を生きのびた五千万人の幸運な人間たちは、記憶を全て消去されて新しい人生をはじめることとなる。
すべての悲しみや苦しみを忘れて、イグナティウスの力にすべてを依存して生きる世界。
まあ、楽な生き方かもしれない。
だが、楽しくはなさそうだ。
あんなイカレ野郎の独裁でしか成り立たない世界なんてゾッとする。
きっとマジメなセリフしか言えない世界だ。
読書といえば聖書。
歌といえば讃美歌。
お祭りといえば教会でお祈り。
ファ○○ユー!!
世界っていうのは、もっとクソみたいに低俗な娯楽で満ち満ちているものだ、そうだろう!?
勇輝がテンションを高まらせていると、部屋のドアがノックされた。
コンコン。
「お嬢様、ご主人様がお呼びです」
ヒツジ顔の執事だった。
「了解っ!」
勢いよく部屋を出て、勇輝はヴァレリアのもとへむかう。
さあ行こう、このクソみたいに低俗な世界を守る戦いへ。





