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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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心の麻酔

 裏切り者は信用されない。

 これは古今東西どんな文化圏であってもだいたい同じなようだ。

 

 絶妙なタイミングで聖騎士団を裏切り、騎士団総長を討ち取るという巨大な武功をたてたフォルトゥナート・アレッシィ。

 彼は久しぶりに《呪われし異端者たち(アナテマ)》の地下城へ帰還したわけだが、周囲の反応は冷ややかであった。


 表面的には歓迎された。

 第一騎士団長を討ち取ったエンリーケ=カリスとともに大喝采だいかっさいでもってむかえられる。

 しかしそのあとで話しかけてくる者はほとんどおらず、話しかけてくるわずかな人間たちも表情からしてあきらかに友好的ではなかった。

 

 ――騎士団長のくせに騎士道を知らぬ男め。

 ――やつは軍務省長官だった男の息子だろう、本当は二重スパイなのではないか。


 こんなふうに軽蔑けいべつ疑惑ぎわくの目でにらまれている状況であった。

 フォルトゥナート本人は平然とどこ吹く風、という顔をしている。

 だが部下である第四騎士団員たちは居心地悪くて辛そうだった。


「こいつらも所詮しょせん人間だねえ。

 聖都となにも変わらねえじゃねえか」


 フォルトゥナートはやはりここでも聖都にいたころと同じ顔でニヤニヤと笑う。


「やっぱり寒いねえ、この世は」


 崇高すうこうな理想主義者サマたちがお住まいの、《呪われし異端者たち(アナテマ)》の総本山。

 そこでもやっぱり人間はこんなものだ。


 外にあっては敵をうらみ、内にあっては仲間といがみ合う。


 口ではとっても素敵なことばかりおっしゃる方々のこんな実情を知れば、フォルトゥナートでなくとも「寒いな」と言いたくなることだろう。


「やれやれ」


 フォルトゥナートは聖都から持って来た酒瓶さかびんを手に取った。

 これが聖都で手にいれた最後の酒。

 あとはリグーリア産に望みをかけるしかないが、地下城ここでのあつかいの悪さを思えばあまり高級酒は期待できそうにない。

 

「ま、なるようになるさ」


 自分の将来をいつものように冷笑しながら、びんのふたをとろうとしたその時。

 コンコンコン、あたえられた個室のドアがノックされた。


「開いてるよ」


 どうせ部下が待遇改善を求めて来たのだろう。

 そう思ってドアの方を見もしない。

 だが入ってきた相手は、《呪われし異端者たち(アナテマ)》の中でもとくに不愛想ぶあいそうな男だった。

 白髪妖眼の魔人、グレーゲル。


「来い、主君がお呼びだ」

「ええー?」


 心底イヤそうな顔でフォルトゥナートはにらんだ。


「オレちゃんこれからお酒飲んでおねむの時間なんですけどぉ?」

「だから急いできたのだ。

 酔っ払いをつれて行って主君の眼前を汚すわけにはいかんからな」

「ケッ、この忠臣ヤローが」


 仕方なくフォルトゥナートは立ち上がった。







「顔を上げよ。

 つかれているだろうに呼び立ててすまないな」


 頭の上から若い女に声をかけられて、ひざまずいていたフォルトゥナートは顔をあげた。

 玉座に座っているのはユーリ=カリス。

 死者を生き返らせる力を持つとかいう、双子のかたわれだ。


滅相めっそうもありません」


 適当にうわつらの言葉をならべながら、フォルトゥナートは心の中でユーリを品定しなさだめする。


(聖都に一万人くらいいそうな、普通の女だな)

 

 聖都の人口は百万人。

 半分が女だ。

 五十万人中の一万人という評価はまあ、なんとも言いがたい微妙な評価。

 

「大功をたてたあなたの事を、みなにもっと知ってもらおうと思ってな」

「格別のお心づかい、感激にございます」


 どうも周囲が歓迎していないことを心配しているらしい。

 見た目の印象通り、平凡な女だ。


(こんなのが世界の女王様、ねえ……?)


 繊細せんさいな気づかいができる、というのは個人としては美徳びとくだろう。

 だが支配者としては果たしてどうなのか。


「あなたはかつてラツィオの軍を統括していた男の一人息子らしいな。

 それを気にかけている者たちがいるのだ。

 手元の資料には記載されているが、あらためて聞かせてもらえないか」


(やれやれ)


 つい苦笑してしまうほどには、不快な要求だった。

 

「子といっても、私はめかけの子です。

 母も私もあの者のことを『旦那様』と呼んでいました。

 父と呼んだことは一度も無いのです」


 父は先々代の軍務省長官カルロ・アレッシィ。

 母はアレッシィ家の召使い。

 あまりにも典型的な、いわゆる妾の子だった。

 母はカルロの子を身ごもったと分かった時点で屋敷を出され、住む家と給金が支給される生活になった。

 フォルトゥナートは基本母と子の二人暮らし。

 ときどき夜中に『旦那様』が家にやって来るという少年時代をすごした。


 そして15歳の時に母がはやり病で病死。

『旦那様』に養われるだけの人生などまっぴらだった彼は一人で旅に出る。

 そこで《呪われし異端者たち(アナテマ)》に出会い、入信した。


 個人的な想いとしては今さら聖都へ帰りたくなかった。

 だがカルロ・アレッシィは順調に出世をかさね、ついには軍の長官にまでなってしまっていた。

 組織として、これを利用しない手はない。

 まさに奇貨きかおくべし、というやつだ。

 フォルトゥナートは不本意ながら聖都へ、父のもとへ帰らされてしまったのである。


 父は堂々たる体躯に育ったフォルトゥナートの帰還を喜んだ。

 喜んだが、しかし彼はカルロのおいということになった。

 実の息子ではなく、兄の息子という『設定』である。

 聖職者が不貞の事実をかくすためによくやる手だ。

 だからまわりも特になにも言わない。

 公然の秘密として、フォルトゥナート・アレッシィはカルロ・アレッシィ長官の甥となった。


 長官の甥(本当は子)。

 大きく頑健な身体。

 聡明な頭脳。

 これでもかというほど才能に恵まれていた彼は順調に出世していき、ついには騎士団長にまでなる。

 出世していく過程で今の部下も少しずつ増やしていった。

 

 そして父だか伯父おじだか旦那様だかよく分からない男はやがて老齢で死に、彼は今ここに居る。

 自分がどういう人間なのか、フォルトゥナートにはよく分からない。

 うらやましいという者もたまにいるが、なにを言っているんだと腹が立つ。

 彼の生い立ちは普通の人間とちがう。

 そのちがいを埋めてくれるものがなにもなくて、彼の心には大きな穴がぽっかりと開いているのだった。


「私の願いは理想郷というものをこの目で見ることです。

 今の世の中には生きがいを感じられないもので」

「そうか。

 よく分かった。

 つらい話をさせてすまなかったな」


 退出をゆるされ、フォルトゥナートはあたえられた部屋へ戻る。

 戻りながら心の中で思う。


(だがはたして俺は、その理想郷とやらにふさわしい男なのかね)


 冷たい風が心の穴を吹き抜けていく。

 寒い。

 寒い。

 こんな時は酒だ。酒を飲もう。

 心の麻酔ますいが必要だった。

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