三人の騎士団長、その生き様
『あんたの読み通りだねベラン!』
殺伐とした戦場の騒音につつまれながら名を呼ばれ、ベランジェールは目を白黒させた。
「え、な、なに!?
なんて言ったの!?」
『あんたの計算通りだってホメたんだよ。
フォルトゥナートの野郎、手を抜きはじめやがった!』
「あっ、う、うん!」
事実、第四騎士団の攻め方はこちらを殺すやり方から、手傷を増やすやり方に変化してきている。
なにが違うかといえば深入りのしかたが違ってきている。
同じ聖騎士団の守護機兵同士、武器の威力や間合いはおなじだ。
こちらを殺そうとすればむこうも殺される。
そこは対等なので、徹底的にぶつかり合えば先に消滅するのは数でおとる第四騎士団のほうなのだ。
だからフォルトゥナートは方針を変えた。
第二、第五両騎士団を全滅させるゴリ押し戦法をやめ、部隊をじわじわと後退させている。
「きっとあの人、頭の回転が速すぎるんだよ」
だから効率の悪い戦いかたをきらう。
決断がはやくムダにあがいたり、ためらったりしない。
それはきっと正しいことだが、反面ねばり強さやあきらめの悪さというものが無い。
ダメとなればパッと手を引く。
そういう悪い面が顔を見せてくれた。
フォルトゥナートがいま戦っているのは、古くからのやり方を受け継いで現代にいたる第五騎士団。
団長のマキシミリアンは鋼の意志と豊富な実戦経験をかね備えた、まさにたたき上げの軍人だ。
死も厭わず。
犠牲も恐れず。
そういう非効率的なぶつかり合い。
つまり気合と根性のぶつかり合いならば、マキシミリアンがフォルトゥナートにおとる道理はなかった。
『ならもう楽勝?』
「ううん、まだ。
あの人ぜったいこっちを削りにくる。
出口あたりでそういう準備をしてるはず」
いま戦っている敵部隊は、たとえるならワインボトルのフタをしているコルク栓だ。
もうすぐポン! と栓は抜ける。
その先にまつのはワイングラスのはず。
「敵はたぶん林道の出口付近に半包囲の陣をしいているはず。
攻撃がぬるくなったのはそれも原因。
きっとあたしたちが出た瞬間に矢の雨がふってくる」
話を聞いていたベラン隊の女騎士たちはゾッと背筋が凍った。
待ちかまえていることがわかっていても、こちらは止まるわけにいかない。
矢の雨がふる中、味方が次々と射殺されていく中、それでも強行突破していくしかない。
「う~ん、ううう~!」
うなりながらガリガリと頭をかくベランジェール。
「第二騎士団が持っている盾を全部、第五にわたして」
『えっ!?』
矢が飛んで来ると予想したくせに、身をまもる盾を手ばなせと。
つづく言葉は、総指揮官殿の冷徹な損得計算であった。
「だって第五が先に射られるわけじゃん?
それにあたしよりマキシミリアンさんのほうが突撃強いじゃん?
フォルトゥナートはそれを知ってる。
だからフルパワーで射られるのは第五の方なんだよ」
『……ちなみに、あたしらはどうなるのかな』
大事な友人たちから、ベランジェールは目をそらした。
「犠牲を出さずに逃げる方法なんて、無いんだよ」
できることは犠牲を少しでもへらすことである。
犠牲を出さない方法は、無い。
『……了解っ!』
ここまで第五騎士団はすさまじい流血をしいられてきた。
第二騎士団ばかり無傷ではいられない。
ただちに命令にしたがい、第二騎士団は盾をかき集めて第五騎士団の最後尾に手渡す。
自分の手駒を犠牲にしようという第二騎士団長の決断に、第五の騎士たちは感激して盾を受け取った。





