誤算
言うまでもなく、フォルトゥナートにとってこれは大きな誤算だった。
あのベランジェールにこんな行動力と思考力があったとは。
今もフォルトゥナート率いる第四騎士団と、マキシミリアン率いる第五騎士団は激戦をくり広げている。
殺意をこめた怒号が飛び交い、武器や機体がぶつかり合って火花が散る。
血しぶきが戦場に舞い、それを見た者はまた新たな殺意をたぎらせた。
守護機兵同士、そして人間同士の戦争。
どちらが勝つにしても悲惨な有り様であった。
絶望的状況が少しばかり改善され、第五騎士団の動きが良くなってきている。
後方、第二騎士団は現在安定しているようだ。
だから第五騎士団は目の前の敵にだけ集中すればいい。
――第四騎士団を押し返し、突破する。
――突破して聖都へ帰還する。
ベランジェールからこれらの目標をあたえられ、彼らはただそれだけに専念している。
こうなると古風な騎士道にこだわる第五騎士団は手強い。
理屈もくそもなく、ただただ命をかけて戦えと、そういう思想教育をうけて戦歴を重ねてきた脳筋バカどもだ。
やることが決まればあとはひたすら命をかける。
それが騎士の美学だとか語ってしまうやつらだった。
「こりゃあ、ムリだな」
全滅させるのは。という意味でつぶやくフォルトゥナート。
予想ではもっと兵力を減らしてから強攻策にでてくるはずだったのだ。
そして突撃命令をくだすのはマキシミリアンのはずだった。
まさかあんな小娘が、こんなに早く全軍突撃の決断をしてくるとは。
間違いなく第二、第五の両騎士団はこの突撃命令のせいで多数の死者を出すことになる。
しかしそれでも、全軍一丸となっての強行突破が結果的にもっとも少ない犠牲ですませられる作戦だろう。
その点はフォルトゥナートも同意見だった。
初期の奇襲が功を奏し、戦いはまだ第四騎士団が有利だ。
だがずっと戦いがつづけば小娘の言うとおり、彼の第四騎士団は全滅し相手側がわずかに生き残る計算になる。
さすがにそんな馬鹿な戦いかたはさせられない。
これは重要な戦いだが、それでも初戦である。
《呪われし異端者たち》の理想郷を作り上げるためには、まだまだ長い月日を戦いつづけなくてはならない。
だからあえて力を抜き、戦力を温存させる必要が出てきた。
『いいぞ! 我々のほうが圧倒している!』
『当たり前だ、正義は我らにあり!
裏切り者などに負けるものか!』
第二、第五の連合軍は、じょじょに第四騎士団を圧倒し、前進しはじめている。
少しずつだがこの林道での戦いかたがわかってきた。
負傷、または疲労によって戦えなくなった者は左右の茂みに無理やり機体を突っこませ、後続の味方を前進させる。
前進した味方が負傷したら、また左右に身をしずませて後続を進ませる。
苦しまぎれもいいところだが、これでどうにか最前線の兵を交代させて戦いつづけた。
もうすぐこの林をぬける。
ぬけたら、あとは聖都までの一本道だ。





