頭のいかれたお調子者
――おおおお……!?
絶体絶命の聖騎士たちから、期待のこもった歓声があふれ出た。
超大型、重装甲というわかりやすい見た目。
いかにも強そうだ。
『ベランジェール・ド・ボファン様?』
「は、はい!?」
黒い巨体から男性声の機械音声が発せられ、ベランジェールの名をよんだ。
聖女のつくるモノはしゃべる。
これはわりと有名なので周囲のおどろきは少ない。
『我々は貴女を守る騎士です。
ご命令を』
「われわれ……?」
『はい、この機体は五体のハネエッガイによって運用されています。
ところで、お役目は正面の悪魔を撃退することでしょうか?』
「そ、そうです! できる!?」
ここで出来ないとか言われると元も子もなかったが、ハネエッガイたちは即座に断言した。
『可能です。そのために用意された我々です』
「じゃ、じゃあやっちゃってくださーい!」
『了解』
黒い巨体はドシンドシンと強い振動をおこしながら、敵にむかって走り出す。
『敵多数』
『前方に味方機の存在を確認』
『敵側戦意高し、通常戦闘での撃退は困難』
『《聖女の力》の使用を提案』
『同意』『同意』『同意』『同意』
ドシンドシンドシンドシン……!
駆ける巨体。
大地がはげしく揺れ動く。
『第一リング、使用』
声とともに胴体部分の装飾がひとつ砕け散った。
と、同時にすさまじい魔力が黒い巨体をつつむ。
そして逃げてくる第一騎士団の手前で大きくジャンプして、跳びこえた。
『超! 大回転爆裂人間砲弾ー!!』
聖女の魔力が渦を巻いて巨体をつつむ。
聖騎士団の注目を集めるなか、期待の新型がはなった技は。
なんとジャンピングヘッドバッドであった!!
「なんで頭突きぃぃぃ!?」
後ろでツッコミをいれるベランジェール。
しかし黒い巨人はそのまま突っ込んでいった!
『ぬああああああああ!!』
巨体がさらに渦をまとい、せまい林道をすき間なく埋めつくす。
第一騎士団を追撃していた悪魔の魔獣軍団は回避もできず、聖女の魔力をまともにくらって次々と消滅していった。
『でえええええええええええい!!』
機械人形のくせに気合の雄叫びをあげながら突っ込んでいく人間砲弾。
聖女勇輝の趣味なのは間違いない。
『成敗っ!』
ドドドドドドドオオオオン…………!!
悪魔の撃破を意味する黒い霧が盛大に巻き上がった。
敵先鋒部隊、壊滅。
『とうっ!』
さらに黒い巨人は空へと飛び上がる。
空は鳥型や虫型の悪魔で埋めつくされている。
『第二リングの使用を提案』
『同意』『同意』『同意』『同意』
またもや謎の相談がおこなわれ、胴体から二つ目の装飾が破壊された。
ふたたび巨体が聖女の魔力で満たされる。
『ダァァブル! ニードル・マシンガン!』
巨人の両腕から金属の針が次々とはなたれ、敵の身体に次々と突き刺さっていく。
直接的な殺傷力はそれほどでもない。
だがこれは次なる攻撃の伏線。
『ギィガァァ・サンダァァァ・スパアァァァァクッ!!』
巨人の全身が光り輝き、強烈な電撃がはなたれる!
悪魔の身体に刺さっていたニードルが電撃を吸い寄せ、自動的に悪魔たちを黒コゲにした。
「す、すごい!」
地上で戦闘を見上げていたベランジェールたちは、想像以上の戦闘力に大喝采をおくった。
これだけの攻撃力があるなら危機を脱するどころか、このまま勝利できるではないか!
「さすが聖女様! こんなに圧倒的だなんて!」
大喜びのベランジェール。
黒い巨人は彼女の前に着地した。
そして謎の言葉を発する。
『終了』
「え? 終了とか言わないでもっとやっちゃって下さいよ!」
『いえ、それは、無理……』
ドッタアアアアアアン……!!
「ギャアッ!?」
すさまじい衝撃に身体が浮き上がり、転んでしまうベランジェール。
どうしたことか、巨人はうしろ向きにブッ倒れてしまった。
『エネルギー切れ、です。
同じパワーで、活動する、には、現環境で、60時間、の、充電、が必要、です』
「60時間!?
あんた1分くらいしか動いてないじゃん!?」
『我々は、当、初、20、体の、チーム。
しか、し、爆発、事故……デス』
もはや会話すらおぼつかなくなってきている。
どうやら本来はエッガイ20体で動かす予定の守護機兵だったらしい。
だが20体ものエネルギーだと強力すぎて機体がもたず、爆発事故をおこしてしまった。
だから大幅に数をへらしたのだが、そのため行動時間が極端に短くなってしまった……らしい。
1分しか動けない。
そして人口密度がたりないので、充電にもメチャクチャ時間がかかる。
とんでもない未完成品だった。
「ハア~」
ベランジェールはふかいふかいため息をつきながら、魔法の指輪に巨人を収納した。
「聖女さまらしい……。
ほんっとに聖女さまらしいわこの機兵!
仕事が雑すぎでしょいくらなんでも!」
勇輝の苦笑する様子が目に浮かぶようであった。
「あなた、名前とかあるの?」
指輪に話しかけると、奥から声がした。
『ナイ、デス』
名前を付けるヒマもなかったらしい。
「ん~じゃあとりあえず《フーフー》ってことで」
『フーフー……?』
「あたしが子供のころ住んでた国の言葉で、『頭のいかれたお調子者』って意味」
『リョウ、カイ……』
そのひと言をのこして、指輪は完全に沈黙してしまった。
「あ~もう、助かったと思ったのに」
とりあえず目の前のピンチはどうにかなった。
だがやがて悪魔の第二陣が来るだろう。
「結局、自分たちでどうにかするしかないのか」
まだまだ危険きわまりない戦況である。
しかしちょっとだけ心に余裕が生まれていた。
もうダメだというあきらめの心境から、やるしかないという気合のはいった心境に変わっている。
これも聖女さまのおかげ……かもしれない。





