自分がやらなきゃみんな死ぬ
騎士団総長フリードリヒが戦死。
総長殿を殺したのは第四騎士団長フォルトゥナート・アレッシィ。
すでに第五騎士団が第四騎士団と戦闘を開始。
この報告を聞かされたベランジェールは、あたえられた情報を素直に信じることができなかった。
「ウソ……おじさんが、死んじゃった……?」
総大将の死。
それは頭脳が死んだことを意味する。
全体を支配する権限をもつ者がいなくなり、状況判断はそれぞれの騎士団長、あるいは個人個人が協力してやらなくてはいけなくなる。
そうはいうけれども現状はヤバすぎる。
騎士団総長、第一騎士団長が戦死。
第四騎士団が反乱。
無事なのはいま戦っている第五騎士団と、ベランジェールがまかされている第二騎士団のみ。
しかし第五騎士団長マキシミリアンはすでに彼自身が剣をふるって格闘中。
真剣で殺し合いをしながら全体の指揮をとるなんて不可能である。
マキシミリアンの次にえらいのは彼女、第二騎士団長ベランジェールだ。
だからこの場はベランジェールが支配し、全軍の指揮をとらなければいけない。
「う、ウソだよね……、やめてよ、やめてよ……!」
絶望的状況だ。
戦力は半減。
なおも前後から挟撃されて危機的状況。
戦場はせまい林の一本道。
守護機兵に乗ったままでは木々の生い茂る林を通りぬけるわけにもいかず、かといって機兵を乗り捨てて生き残れるわけもない。
経験豊富な先輩は戦闘中で死ぬほどいそがしく、現場の最上位者は自分ということになってしまう。
敵は本気で殺しにきている。
ここで対処をあやまれば、北伐部隊は全滅する。
時間もない。
悪魔が第一騎士団の生き残りを食いつくせば、次はベランジェールの第二騎士団の番だ。
今、ここで、ベランジェールが、残存戦力を支配しなくてはいけない。
その上で最適の指揮をおこなうのだ。
これら全部の条件をみたさなければ、本当に全滅する。
「ムリムリムリ!!
あたしには無理ー!!」
ベランジェールは自分でやった占いを思い出していた。
『決断を迷ってはいけない』
そういうイヤな予感のする結果が出ていたのだが。
これか。こういうことだったのか。
「イヤだー!」
あからさまに嫌がる団長をみかねて、まわりが口を出してきた。
『団長殿、まずは防御を固めませんか。
このままでは危険です』
「ダメ!」
危機にあるものとして当たり前の提案だったはずだが、ベランジェールは意外な強さで否定してしまう。
「守っても全滅するのが半日遅れるだけ!
攻めるの! 攻めなきゃダメ!」
『は、はい……』
進言した騎士はぼう然とした顔で自分の女上司を見つめた。
血筋だけで団長になったお飾りの女だと思っていたが、こんなふうに言い返されるとは。
「あっ、ご、ゴメン!
せっかくアドバイスしてくれたのにね!?」
『い、いえ』
しかしあっという間にいつものベランジェールに戻ってしまうのだった。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
ベランジェールは親指の爪をかみながら思考をめぐらせた。
さまざまな情報が脳内で高速回転する。
考えれば考えるほど状況は絶望的だ。
残っている人間すべてを救う方法は、もはや存在しない。
もうこの戦場に勝利はないのだ。
こんな戦況から、どれだけマシな敗北ができるか。
そこに全力をそそぐべきだった。
虚空を見つめて思考するベランジェール。
しかし現実に引き戻す、するどい悲鳴が飛んできた。
『た、頼む、助けてくれ!
救助を!』
第一騎士団の生き残りたちが、壊れかけた味方機を肩にかつぎながら駆けてくる。
その後ろには悪魔の大軍団が。
「とりあえず、『コレ』、使うしかないかぁ……」
ベランジェールは自分の右手にはめられた魔法の指輪を見つめた。
聖女ユウキが作った新兵器。
おそらく未知の能力をもつ新型守護機兵。
しかし未完成品だ。
『できるなら使うな』
聖女はそう言っていた。
この新兵器を作るために彼女は大爆発事故をおこしている。
この改良型もおなじかもしれない。
だとしたらもう、作戦とかそれ以前の問題でベランジェールたちは終わる。
『グアオオオオッ!!』
黒い獅子がこちらを見つけて吼えている。
そのほかトラやオオカミ、ゾウにキリンと邪悪なサファリパーク状態だ。
気持ち悪い体色の動物悪魔たちは、あきらかな敵意を第二騎士団にむけていた。
もう迷っている時間すらない。
「ええーい!
いっちゃえええええっ!」
ベランジェールは目をつぶって魔法の指輪を起動させた。
指輪が光り、中から巨大な黒い影が飛びだしてくる!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドン♪
なぜか音楽つきだった。
黒い影は、守護機兵としても異様な巨体をしていた。
黒く、巨大で、重厚な熾天使タイプ。
ズズウウン……!
黒い新型は、地響きをたてながら地上に降り立った。





