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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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虚しい酒

 勇輝がフリードリヒ総長に会いに行ったとしても、まず相手にしてもらえないだろう。

 だからベランジェール先輩に会いに行くことにした。

 第二騎士団長ベランジェール・ド・ボファン。

 彼女のことだ、きっと遠征したくないと考えているだろう。






「せぇっかく帰ってきたのに~やぁだぁもう~!」


 自分の机に顔面をこすりつけながら嫌がるベラン先輩。

 あまりにも予想通りすぎて、ちょっと笑ってしまう。


「先輩は道案内ガイド役ですか?」

「うん~。

 最後尾で戦闘には参加しなくてもいいって言われたけどぉ~。

 面倒くさい~、ユウキ様かわって~」

「んなこと言われても」


 グダグダとした会話がつづく中、勇輝はそれぞれの騎士団長たちの思惑おもわくを聞きだすことができた。


 まず遠征計画を積極的に支持しているのは騎士団総長であるフリードリヒと、第五騎士団長マキシミリアン。

 はっきり嫌がっているのは意外にもここにいる第二騎士団長ベランジェールだけ。

 居残りを命じられた第三騎士団長リカルドと遊撃隊長ランベルトは、『条件つき』の賛成さんせい

 第四騎士団長フォルトゥナートは「どっちでもいいんじゃね~?」というやる気のない態度だったそうな。


「おっさんと兄貴がだした条件っていうのは?」

「『達成目標を明確に』と『早期終結』が条件だって~」

「ああ、ヴァレリア様が言っていたことをそのまんま伝えたんだ」


 賛成四、反対一、これではもうあきらめて行くしかない。

 教皇暗殺という深刻な事態に対する報復だ。

 賛成意見が多いのは当たり前だった。


「ああ~、ま~たあのメンドクサイ大森林に行くのかと思うと……」


 ベラン先輩はまたもや机にした。

 北部にひろがる大森林地帯は、悪魔ディアブルが多数うろついている天然の大要塞だいようさいだ。

 道は悪く、視界はせまく、似たような景色ばかりですぐ道にまよう。

 上空から偵察しようにも木々の葉が目隠めかくしとなってしまい上手くいかない。

 実にやっかいな場所だった。


「あっそうだうらないは?

 先輩占い得意じゃないですか。

 またやってみて下さいよ」

「もうやった」


 ベラン先輩は感情のない顔で言った。


「『決断を迷ってはいけない』って出ちゃった」

「……それはつまり、決断しなきゃいけないような状況まで追いつめられるってことなんじゃ?」


 ハアッ。


 イエスともノーとも言わずに、無言でため息をつく先輩。

 ひどく憂鬱ゆううつそうだった。


 彼女の占いはこまかい部分が分からない。

 だが当たる。

 最近勇輝は『いっしょに北へ行く』と占われ、実際に先輩といっしょに北の大森林へと行ってきた。

 ベラン先輩の占いはたしかに当たるのだ。

 だからこれから彼女はなにか決断をせまられる。

 きっと大きな決断を。


「俺、なにか作ってきますよ。

 先輩の力になれるようなものを」

「……うん、お願いしちゃおうかな。

 なんだかとってもイヤな予感がするの」

「オッケー!」

 

 勇輝はドンと胸をたたいた。








 第四騎士団長フォルトゥナート・アレッシィは、自宅の地下室で極秘のやり取りをおこなっていた。

 暗闇の中、小さなテーブルの上に通信用の水晶玉が置かれている。


『今回は貴様にも動いてもらう』


 水晶からは魔人グレーゲルの声が。


「へえ、とうとう聖都の酒を飲むのも最後になっちまうのか」


 フォルトゥナートはいつもと変わらぬヘラヘラとしたうすら笑いを浮かべている。


『我々の攻撃にあわせ、貴様は寝返って大将を討て。

 あとは我々がうまくやる』

「ワオ、大仕事じゃねえの」


 本当にいつもとなにも変わらぬ、平静そのものの顔でフォルトゥナートは応答している。

 あまりの軽薄さに、グレーゲルのほうが心配そうになった。


『ずいぶんと軽いな、未練はないのか?』

「未練ねえ」


 片眉かたまゆをはねあげ、皮肉な笑顔に変わった。


「俺はさ、世の中のことなんざ実はどうでもいいんだ」

『なに?』

むなしいだけさ、何もかも。

 酒を飲んでも忘れていられるのは酔っている時だけ。

 本当に理想郷なんてものがあるんなら、死ぬ前に一回見てみてえ。

 俺の中にあるのはそれだけさ」


 めぐまれた大きな身体。

 聡明な頭脳。

 優れた剣術。


 これだけの才能を有していても、フォルトゥナート・アレッシィという男の中をめるのは虚無感であった。


 生きていることが虚しい。

 自己の存在に価値を見いだせない。

 そんな寒々とした感傷が、彼を裏切り者にしてしまった。


「なあグレーゲル。

 理想郷なんていう素晴らしい場所に、俺たちの居場所なんてあるのかね?

 俺たちみたいなはみ出し者がいる時点で、そこは理想郷じゃない気がするんだがなあ?」

『…………心配は無用だ。

 聖イグナティウスの創る理想郷は、お前のような男にこそふさわしい』

「へーえ」


 信じているのかいないのか、気のない返事をするフォルトゥナートであった。

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