新教皇即位、そして北伐へ
新教皇イナケンティス四世の戴冠式がおこなわれた。
凶刃によって天に召されてしまった先代の名と使命を受け継ぎ、そして新しい時代にむかうことを宣誓。
厳かな空気で神聖な儀式がつづくのを、勇輝は退屈な思いでながめていた。
来賓、つまり招待客として勇輝も式典に参加させられていた。
聖女ユウキ・アイザワの名は今や世界的に有名なものである。
しかし教会に『聖女』という名前の役職があるわけではなく、他になにかしらの仕事があたえられているわけでもない。
意外にも勇輝の公的な立場はただの学生にすぎないのだ。
だがとてつもない有名人であるのはたしかで、しかも宗教的においのする有名人である。
呼ばないのも不自然であろうということで、この戴冠式にお呼ばれされた、という状況であった。
(マッテオのじいさん、大変そうだなあ)
ヒマすぎて心の中で不敬なことを考えはじめる勇輝。
彼はもうマッテオではない、イナケンティス四世聖下である。
しかし先日出会ったときのフランクな態度が印象にのこっていて、今の彼には違和感があった。
絢爛豪華な装飾のなされた白い法衣。
白い法衣は教皇だけに許された、最高位のものである。
頭上にはこれまた絢爛豪華な三重の教皇冠。
素材はわからないが、白い大きな帽子にメチャクチャ豪華な黄金細工の輪っかが三つも付けられた外見をしている。
(すげえ重そう)
装飾品に興味のない勇輝は、ミもフタもない感想をいだく。
教皇が、というか教会そのものがやたらと絢爛豪華な演出を好むのは、美術や芸術をとおして誰にでも神の偉大さを理解できるように、との配慮らしい。
文字が読めなくても、言葉が通じなくても、美しさを介すれば神の偉大さと尊さをつたえることができる。
やりすぎなほど豪華な服装や教会はいわば『見る聖書』。
聖譚曲や讃美歌は『聞く聖書』。
演出といってしまえばそこまでだが、理屈は納得のいくものだった。
(まあ、参加したいとは思えねえけど)
そりゃ、演出を楽しむ側はしあわせな気分になれるだろうけれど、演出をする側はとても大変そうだ。
たとえば本日この場、一番偉い人が一番大変そうだった。
真っ白な白髪頭の上に豪華すぎて重そうな冠をのせて。
それでも笑顔を絶やさず頑張っている姿は、権力とはどういうものかを物語っているように見えた。
新教皇の即位と同時に、各省庁の人事も一新された。
とうとう正式にヴァレリアは軍務省長官ではなくなってしまう。
それと同時に、まさに「鉄は熱いうちに打て」とでもいうかのような速さで「北伐計画」が発表された。
北の大森林地帯で跳梁跋扈する邪悪な《呪われし異端者たち》に、今こそ正義の鉄槌をくだすのだ!! と。
いささか装飾過剰な文言で、軍務省は出征計画を世間に発表した。
北伐に参加するメンバーは以下のとおり。
騎士団総長 フリードリヒ・フォン・ギュンダーローデ。
第一騎士団長 エーリッヒ・フォン・クロイツァー。
第二騎士団長 ベランジェール・ド・ボファン。
第四騎士団長 フォルトゥナート・アレッシィ。
第五騎士団長 マキシミリアン・ロ・ファルコ。
もちろんそれぞれの騎士団長は精鋭をひきつれて出征する。
そして聖都の防衛は以下の二人にまかされることとなった。
第三騎士団長 リカルド・マーディアー。
遊撃隊隊長 ランベルト・ベルモンド。
「あ~ららららら……」
完全に話が決まってから詳細を知った勇輝は、あきれるしかなかった。
ものすごく露骨に旧ヴァレリア派をのけ者あつかいしている。
フリードリヒ総長は手柄を自分たちだけで独占するつもりらしい。





