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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第六章 聖女大戦

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数百年ぶりの再会

 聖イグナティウスによってふたたび北の大森林に連れてこられた、その日の夜。

 満月の下を飛行する二体の守護機兵の姿があった。

 紅の天使《クリムゾンセラフ》。

 白い天使《アルブム》。

 それぞれ乗っているのは勇輝とユリアナだ。

 

『けっこうやるなユリアナ』

『訓練だけは受けている』


 なんの目的もなく、ただ月の光を浴びながら飛翔するふたつの天使。

 ある意味深夜のデートだ。

 

 軽い夕食をすませたあと、与えられた部屋で夜空を見上げていた勇輝。

 同じように夜空を見上げているユリアナの姿に気づき、会話をしているうちにこういう流れになった。


『宇宙には行ったことあるか?』

『宇宙だって? いや無いな』

『地上と宇宙じゃ、星の見え方がちがうんだ。

 ちょっと行ってみる価値はあるぞ』

『うーん、興味はあるけど』

『けど?』

『ちょっと怖いな』


 とりとめのない言葉のやり取りがつづく。

 このにおよんでもなお勇輝はユーリのことを『ユリアナ』と呼び、ユーリのほうも訂正ていせいしない。

 二人の関係が嘘のなかでしか維持できないことを、二人とももう理解しているからだ。


『ユリアナ』という架空かくうの女になっている時だけ、ユーリは《呪われし異端者たち(アナテマ)》の首領という立場をはなれて無責任なただの女の子になれる。

 血筋でもなく、能力でもなく、ただの女の子として交流を求めてくる勇輝の存在がありがたい。


『空気もない、上下もない、簡単に人が死ぬ怖い空間だっていうじゃない』

『まあ、うん』

『ちょっとね』

『そっか』


 言われてみるとたしかに得るものより失う危険のほうが多いような気もする。

 だけど得られるものもたしかにあるのだ。

 行動の先にしか得られないものが。


《クリムゾンセラフ》は適当な広場を見つけて、地上に降りた。

《アルブム》もそれにつづく。

 

 ザザーッ。

 

 風にゆられて木々がざわめく。

 雲にかくれて月光がさえぎられた。

 

 ザワザワザワザワ……。


 風はまだ強く吹いている。

 闇の中、木々のざわめきだけが聞こえる。

 夜の森にまぎれるような小さな声で、勇輝は提案した。


『ならさ、ユリアナ』

『なに?』

『聖都へ行ってみないか、俺といっしょに』


 重大な意味を持つ内緒話ないしょばなし

 ユリアナは思わずキョロキョロと周囲をうかがう。


『どうせ聞こえているさ、かまうもんか』

『き、聞こえているってそんな気楽に』


 聖人の耳目じもくをごまかすなんて勇輝にはまず無理なことだ。

 イグナティウスに聞いておこうという意思があるならすでに聞いているだろう。

 どうでもよいと考えているなら聞いていないだろう。

 選ぶのは彼であってこちらではない。


『聖都がいやならエウフェーミアのところへ行ってみるか?

 性癖が特殊すぎてお前もたぶん笑っちまうぞ』

『せ、性癖?』

『性癖だ。性的な癖という意味で言っている』

『……お前の親だろう?』

『むこうは姉妹だと言いはっているがな。

 で、どうだ。行ってみないか』

『…………』


 ユリアナは少なからず心動かされた様子だったが、それでも首を横にふった。


『……これでも重い立場をまかされているんだよ』

『あんなやつの歯車になったっていいことはない。

 お前はもっと面白いことを知るべきだ。

 世の中にはいろんな奴がいるんだよ』

『…………』


 ユリアナはうつむいたまま沈黙してしまう。

 その時また風が吹いた。

 雲間から満月が姿を見せ、周囲を明るく照らす。


『そら、おむかえがきた』

『え?』


 ユリアナが顔をあげると、月の光を浴びながら輪になって上空を旋回する十二体の天使の姿が。


『あれがエウフェーミアの十二天使だ』


 そして輪の中央には月の女神かと間違えそうなほど美しい乙女が、空中に立っている。

 勇輝の造物主。

 東方を守護する伝説の聖女。

 聖エウフェーミアの登場だった。 


『あれがもう一人の聖人……』

『ああ。俺より美人だろ?』


 そんな冗談を言われてユリアナはスクリーン上の勇輝に微笑ほほえむ。

 

『私はお前の顔も好きだよ』


 ニカっと白い歯をみせて勇輝は笑った。





 一方、上空で待機していたエウフェーミアの前にはみすぼらしい姿の聖人、イグナティウスが姿を見せる。


「お久しぶりです、お師匠様」


 スカートのすそをつまみ上げて礼をする美しき聖女を、師は無感動な表情で見る。

 見つめる、というより確認する、といった目つきだった。


「地上は何百年ぶりだ、エウフェーミア。

 力はおとろえておらぬようだな」

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