神にも悪魔にもなれる
向かい合うクリムゾンセラフと兵卒。
武器はおたがい日本刀。
しかし体格差は成人男性と中学生くらいの違いがある。
『よし、来い!』
『了解』
ハネエッガイのあやつる兵卒が刀をかまえて突っこんでくる。
刀の位置は頭の右横、切っ先は天を衝くように真上をむいている。
思い切り振り下ろしてぶった切るぞ、といういつもの勇輝のかまえだった。
『ウオオオーッ!』
『…………』
ガギィン!!
巨大な日本刀がぶつかり合って火花が散る。
勇輝は猛々しく、ハネエッガイは静かに、おたがいの武器を叩きつけ合った。
『けっこうやるな!』
兵卒はなおも日本刀を振りまわし、ガンガンぶつけてくる。
これはまさに勇輝が十二天使の一人、黒騎士マルツォに習った闘法だ。
『けど、これって……』
ガツッ! ギィン! ゴッ!
まさに火花散るはげしさで攻めたてる兵卒。
しかしこれはダメなやつだと、勇輝は気づいてしまった。
『その戦法、お前にゃ無理だ。
ウリャアッ!』
勇輝も大きく振りかぶり、相手の武器めがけて思い切り叩きつける。
兵卒のもつ日本刀は、音をたててへし折れた。
キイィィィン……。
甲高い金属音が青空に響きわたる。
中央から折れた刃はクルクルと宙を舞い、そして地面に突き刺さった。
同じようにぶつけ合っていたのに、クリムゾンセラフの刀は無事、兵卒の刀は折れてしまった。
『俺は魔法で自分の武器を修理しながら戦ってる。
だからそうそう折れないし、折れたって新しい武器をすぐ作れる。
この戦い方は普通のやつには無理なんだ』
『了解』
日本刀は折れず、曲がらず、などと言って昔は誇ったようだが事実ではない。
たとえば戦国時代の終盤に『日本無双』とたたえられた名将がいた。
その人物が実戦で二十人あまり斬ったときに、『刀が曲がって鞘におさまらなくなった』という逸話がある。
どんなにいい武器でも何度もぶつけ合えば欠ける、曲がる、折れる。
壊れるものだからこそ、『直しながら戦いつづけ、敵の武器を破壊する』という勇輝の戦法は有効なのだった。
『まあ戦えるってことが分かっただけでも良かったかな。
でもやり方は変えなきゃダメだあ』
『了解』
ハネエッガイは無機質な声で了解、了解、とくり返す。
感情があるのか無いのか勇輝にも分からない。
最も年上の人工知能であるセラはけっこう感情表現豊かなので、こいつらの中にもそれなりに思う所がある気がするのだが。
「えーっ! ダメなのー!? ねえ!?」
離れた場所からルカが大声で呼んでくる。
自分が考えたアイデアが良いのか悪いのか心配らしい。
『ダメってことはないな。
こいつらはこいつらにピッタリあった戦いかたがあるって話だ』
「ふーん……」
いきなりうまくはいかない。これはいつも通りのことだ。
しかしエッガイシステムを使えば無人でも守護機兵が動かせることがわかった。
エッガイたちは操縦方法をコピペで習得できるので、人間のような長くきびしい訓練期間が必要ない。
きっと将来的にはとてつもなく大きな力となるだろう。
夕方。
そんなこんながあった今日の出来事を、ベルモンド家の家族たちに報告する。
一同は異常なスピードで超進化しつづける勇輝の技術革新に絶句してしまった。
飛行型機兵を指輪に収納して携帯できるようになった、というのが昨日の出来事。
そしてたった一日後の今日。
守護機兵の自動操縦が可能になったよ~とか言われて無人で動きまわる兵卒を見せつけられてしまった家族の気持ちときたら。
「……君は、世界征服でもするつもりなのか?」
ランベルトのつぶやきを否定したのは、勇輝本人だけだった。
「なんでだよ!
そんなクソめんどくせーことに興味ねーわ!」
「しかしな……」
腕組みをして兵卒を見上げるランベルト。
今ハネエッガイは兵卒にシャドウボクシングをさせていた。
「これはまるで我々騎士の存在意義を否定されてしまったような」
「そんなことにはならねーって!
ドクターヘルじゃあるまいし、ロボット軍団手にいれたからって世界征服なんて話にはならねーよ!」
過ぎた力をもつものは味方からも警戒される。
まさか自分がそうなるとは思わなかった勇輝だった。





