革新的コピペ
「よおし、じゃあさっそく」
ダリアのためにさっそく収納可能な守護機兵を作ろうとする勇輝。
だが頭上からセラの呼びとめる声がした。
『ユウキ様、一から人工知能を作る必要はありません』
「え?」
クリムゾンセラフの巨体を見上げる勇輝。
『たんに指輪から出し入れする機能だけならば、二つの手順で終了です。
翼をもつ機兵を作り、私の技術ノウハウをコピーしてしまえばそれで完了です』
「……えっ」
コピペして終わりとか言いだした。
『空中戦闘をおこなうならば、ダリアさん自身も六肢の飛行タイプを訓練する必要があります。
しかし、本当にただ出し入れするだけならば搭乗者の訓練と、人工知能の育成はもはや必要のない段階にきています』
「……マジで?」
『はい』
なにか得体のしれない恐怖を感じた。
生みの親である勇輝を超越して進化してきている気がする。
「や、やってみるか」
『はい』
勇輝はクリムゾンセラフに乗り込み、ダリア専用の《兵卒》もどきの前まで戻ってきた。
「フーッ」
軽く深呼吸し、目をわずかにとじて精神集中。
《兵卒》もどきの足元から土が盛り上がってきて、機兵をすっぽり包み込んだ。
「……よし!」
そこから三十秒ほど。
今度は土がはがれてゆき地面にもどっていく。
土のかたまりの中から、翼のはえた《兵卒》もどきがあらわれた。
合計で一分間ほどの出来事である。
「あいかわらず、すごすぎて頭がパンクしそうです」
ダリアが困ったような苦笑を見せると、マリアテレーズも意味深にほほえんだ。
「あの子といると奇跡というものが身近に感じられてしまうわね」
新しく翼をあたえられた機兵が、これまた新しく作られた指輪に吸いこまれていく。
そんな様子を見せつけられてはもはや笑うしかない。
『いちおうできたよー』
伝説の聖女様はじつにお気楽な態度で戻ってきた。
すぐにクリムゾンセラフから降り、自分の指輪に収納する。
そして新しく作り出した指輪を、ダリアに手渡した。
「はい、試しにやってみてよ」
「は、はい!」
ダリアは軽い気持ちでとんでもない物を要求してしまったのだと気づいた。
この指輪はおそらく国宝級の財宝だ。
本当にこんなものを受け取ってしまって良いのだろうか。
しかし今さらだ。
受け取れないといったところで聖女は「あっそう」とか言って土に還すだけだろう。
覚悟を決めなければいけない。至宝の所有者になるという覚悟を。
「出てきてください!」
ダリアは指輪を何もない空中にむけ、中に宿っている守護機兵を呼んだ。
指輪から巨大な影が飛びだしてくる。
翼のはえた《兵卒》もどき。
まだ名前もない、ダリア専用の守護機兵。
機兵は空中に姿をあらわし、そして翼を羽ばたかせ落下の勢いをゆるめると、『ふわり』と着地した。
「で、できた! 出来ちまった!」
勇輝は叫んだ。
自分で作ったものながら信じられないという顔をしている。
セラに言われるまま、複写&貼り付けしただけ。
「も、もしかしてさ、ベータの飛行データとかもコピペしたら、ルカの《ネクサス》みたいに自動操縦で空飛べたりする?」
セラはあっさり答えた。
『もちろん可能です』
勇輝は全身がガクガクとふるえだした。
これはヘタをすると守護機兵の常識を根底から変える。
それくらいの技術革新だ。
指輪に入れて持ち歩く便利さは勇輝が誰よりもよく知っている。
そして自動運転中に搭乗者が自由行動できるというのも素晴らしく便利だ。
移動中に休憩ができる。ケガや病気で意識をうしなっていても移動できる。
これはまさに革新的変化だ。
『ヴァレリア・ベルモンド様に一度ご相談なさってはいかがでしょう』
「あ、そうだね! たしかに一回相談してみたほうが良さそうだ!」
相棒がほしい。
たったそれだけの考えからはじめた人工知能搭載型機兵の開発だった。
しかし思いもよらない方向へと進化しはじめたのである。
全体のうちのたった一機が学習したデータであっても、簡単に共有することができる。
新品の機兵にこれまでのノウハウを全部突っ込むこともできる。
この分野はこれから先どれほど伸びるのか、想像もできない。
「ダリア!」
「はい!?」
「今日はすごく色々と勉強になったよ、ありがとう!」
「え!? いえお礼を言うのはこちらのほうですよ!?」
純粋な騎士道精神で生きているダリアにとって、勇輝の想いは理解しにくい。
勇輝は戦士であると同時に技術者・開発者だった。
自分の作ったものが無限の可能性を見せはじめたのだ。
興奮せずにはいられなかった。





