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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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ふるえる小鳥

『ユーリよ、カリスの分けられた魂よ、これからはなんじが世界の王となるのだ』


 聖イグナティウスを名乗る声の主は、あまりに予想をこえる命令をしてきた。


「わ、私が?」

しかり』

「し、しかし私には兄がいます。

 王には兄がなるはずでは」

『エンリーケでは駄目だめだ。

 あの者は欲深よくぶかく、おおやけ奉仕ほうししようという性根がない』

「…………」

 

 双子の妹としては、なんとも答えようがない。

 同意したくなる気持ちもあるが。


『これからはユーリ、お前が王となって地上をみちびくのだ。

 エンリーケには入れ替わりにお前の補佐ほさを命じる』

「そ、それは! 兄が納得するはずありません!」


 あの傲慢ごうまんな兄がそんな命令にしたがうとは。

 しかし超越者の声は、凡人ぼんじんのいやしい心など理解できない様子だった。


『世界をべるものの玉座はふさわしき者にのみ、あたえられる』

 

 兄・エンリーケはふさわしくないから降ろすと。

 そして新しくあたえられたユーリも、もっとふさわしい者があらわれた時には降ろされるのだと。


 イグナティウスの言葉にそこまでの意味はなかったかもしれない。

 だが彼の思想がそういうものであることは明白だ。

 ユーリはまるで石像かなにかと会話しているような気分を味わわされた。

 この聖人の言うことはあまりに合理的だ。合理的すぎて人間味がなさすぎる。


 こんなやり方で人々がついてくるはずがない。

 人にはよくがある。見栄みえがある。不安がある。他にももっと色々とある。

 この聖人にはそれらが理解できないのだ。

 彼がいうところの「おおやけ」の精神ばかりが強い。

 公とはつまり《世のため人のため》の精神である。

 それは素晴らしいことかもしれないが、いくらなんでも私情というものに無頓着むとんちゃくすぎる。

 

 はるかな昔、三人目の聖人になるはずだったカリスはそれで殺されたというのに。

 このイグナティウスという人物は、悠久ゆうきゅうの時の流れを体験しても、まるで変わっていない……!


 うろたえるユーリに、さらなる衝撃の言葉がおそいかかる。


『すでに他の者たちにも告げてある。

 部屋から出よ。

 すべての者がなんじを待っている』

「なっ!?」


 すでに兄にも知られている!?

 それではどうにかつくろうような真似もできないではないか!


 ユーリの心はパニックを起こした。

 大嵐の海に浮かぶ小舟、その中でふるえる小鳥の心境だ。

 もう自分でどうこうできるような状況ではない。

 神に祈ろうにも、その神に相当するお方がこの状況を作ったのだ。


 ガチャッ! バン!!


 その時ユーリのうしろで大音がした。

 部屋のドアが乱暴に開けはなたれたのだ。

 そこには兄、エンリーケが怒りの形相で立っていた。


「あ、兄上」

「ユーリ、この売女ばいため!」


 エンリーケはおどろくユーリの首につかみかかった。


「どんな手を使った、ええ? 

 どんな手を使って取り入ったんだこの淫売いんばいめ!」

「わ、わたし、は、なに、も……」

「嘘をつけ!!」


 エンリーケの眼は血走り、正気とは思えない顔つきになっていた。

 ああそうだろう。

 この兄にあんなことを告げたら、こうなるに決まっている。

 受け入れるわけがない。

 それが兄だ。

 それが人間だ。


「殺してやる……!」


 首をつかむ両手にさらなる力がこもった。

 ユーリは死を覚悟する。

 しかしその時はおとずれなかった。


 突然、エンリーケの身体がガクン! とふるえた。

 

「…………!」


 首をしめていた力がうしなわれ、ユーリは解放される。

 エンリーケは白眼をむき、口から泡をふいて昏倒こんとうした。


「ゲホッ、ゲホゲホッ!!」


 はげしくみ、どうにか呼吸を整えようとするユーリ。

 死んだのかと思ったが、兄は生きていた。気をうしなっただけだ。


「イグナティウス、様……」


 自分は守られたのだと感じた。

 しかしそもそもの原因はイグナティウスにあった。


「一体、私は……」


 自分の運命はどうなってしまうのだろう。

 その答えはだれにも分からないものだ。

 ユーリはただ茫然ぼうぜんと、倒れたままの兄を見ていることしかできなかった。


 第五章 完

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