超越者の師匠
実に意外だった。
世界の果てで浮世離れした人生を送っている聖女エウフェーミア。
そんな彼女が、たかが教会ひとつにこれほど顔色を変えるとは。
「ほかには、他にも同じような場所はあった!?」
「い、いやあ? 見つかんなかったけど?」
「…………」
エウフェーミアは勇輝が用意した画面を食い入るように見つめている。
「一体どうしちゃったのさ」
「……あなた達が見つけたこれは、もう地上のどこにも無いはずのものなのよ」
「ふーん古代文明の遺跡かあ」
「そうじゃなくて!」
「へ?」
「あるお方が、意図的に自分を称えるものすべてを破壊しつくしてしまったのよ! ずいぶんな大昔に!」
彼女は複雑そうな表情で天井の絵画を見つめている。
「どういうこと……。
まさか《呪われし異端者たち》の正体って……」
考えることで少し彼女は落ち着いたようだ。
ちょっと勇輝はたずねてみる。
「その『お方』っていうのは、どういう人なの?」
「……私のお師匠様よ」
「エウフェーミアの師匠! そういう人がいたんだ!」
エウフェーミアは勇輝の顔をジロリとにらんだ。
「いるわよそりゃ。あなた私のことを何だと思ってるわけ?」
「んーとまあ、超人?」
宇宙空間を生身で移動し、不老不死で、自分自身のクローンを魔法でぱぱっと作っちゃう。
こんな超越者を「教育」によって作れるなんて想像したこともなかった。
「で、まあ、この石像が超人様のお師匠様ですか。
俺にとってはどういう人になるんだろうね」
エウフェーミアや十二天使たちは勇輝のことを「妹」とよぶ。
姉の師匠とは、妹にとってどういう存在なのだろう。呼び方は「師匠」とか「先生」でいいだろうか。
「まあそんなことは良いんだけどね」
エウフェーミアはフワッと浮かび上がり、宇宙へ飛び出してしまう。
「え、ちょっと待ってよ!」
勇輝はクリムゾンセラフに乗って彼女のうしろに続いた。
聖女は何もない虚無の空間で待っていた。
「見て。この世界を」
視線の先には世界そのものがあった。
とほうもなく巨大な空気の玉。
その中に浮かぶ大陸。
大陸からはつねに大量の水があふれ出し、それはやがて循環し雨水となり、また大陸に降りそそぐ。
地球とはまた違う世界の姿だ。
「私は東方の守護者エウフェーミア。
おかしいわよね。
世界全体を守っているのに、あくまでも私は『東方の』守護者なの」
エウフェーミアは遠く、世界の反対側を指さした。
「本当は西方の守護者がいたのよ。
名前はイグナティウス。
世界を心から愛していた、私のお師匠様」
「今はどうしているの?」
エウフェーミアは首を横にふった。
「過去にとても辛いことがあって、お師匠様はみずから永い眠りについたの。
もうずっと目を覚まされていない……はずだった」





