別れの青空
ユーリはまず自分が機兵の手に乗ってみせ、そこから二人の淑女を乗せる手伝いをした。
二人を手の上に乗せると入れ違いに搭乗席へもどり、ゆっくり、ゆっくりと手を地面へはこぶ。
ズシン、と軽い振動を大地にあたえ、機兵の手は無事に着地した。
「ユウキ!」
「マリアテレーズ様!」
マリアテレーズ皇女はむかえに来た勇輝に飛びつき、強く抱きしめる。
「少しやせましたね」
「ええ、でも大丈夫よ」
皇女殿下は後ろをむき、純白の天使を見上げる。
「あの方がなにかと気をつかって下さったのよ。
そうでなければもう少し辛い日々だったわ」
「そうだったんですか」
抱きしめあう二人の横で、聖騎士の一人がミーシャの手を取り地面におろしている。
機兵の手が空になったのを確認すると、純白の天使は立ち上がった。
『用件は済んだ』
短くそれだけ言うと翼をひろげ、飛び立とうとする。
「ま、待てよ!」
呼んでも反応がなかったので、勇輝はその場でクリムゾンセラフを召喚した。
すぐに乗り込み、白い天使の肩をつかむ。
『一体どういうことなんだ!
お前はいったい何なんだよ!』
『それは言えない』
白い天使は紅い天使の手をつかみ返す。
だがほんの軽くだ。
『言えないことばかりだ。
せいぜい、今回のことは我々にとっても想定外だった、それくらいだ』
『我々って、お、お前はア、《呪われし異端者たち》なのか?
そうだったのか!?』
違うと言ってほしい、誤解だと言ってほしい。
そんな勇輝の口調であったが、しかし。
『……そうだよ』
本人の口から言われてしまっては、もはや絶望するしかない。
白い天使は自身の肩をつかむ手をそっと払いのけた。
もはや力はこめられておらず、紅い天使の手は簡単にはなれる。
今度こそ白い天使は翼をひろげ、大空へ飛び上がった。
『ユウキ、できればこんな形で出会いたくなかったよ』
そう言い残して去っていく。
そのうしろ姿をみて、勇輝はわけのわからない激情にかられた。
『なんだってんだよ!
なんだってんだよお前は!
バッカヤロー!!』
広い青空にむなしく怒りの声がひびきわたる。
答えは返ってこなかった。





