人質の解放
偶然再会したユーリが少女を生き返らせるという出来事があってから数日。
勇輝は外出を禁止され、野営地内で待機しつづけていた。
少女を救うために大量の血を失ったので、とても戦闘に耐えられるような体調ではない。
『絶対に外へ出てはだめだ。
野営地が襲撃されても騎士たちにまかせろ。
血が元に戻るまでお前は絶対に何もするな。
それが守れないなら聖都に強制送還する』
ランベルトにここまで言われて、しかたなく勇輝はブラブラと遊んですごしていた。
「自分だってムチャするキャラのくせによぉ」
ブツクサぼやきながら、勇輝はあの日切り裂いた自分の左手首をみた。
まったくなんの傷痕もない。
まるでヴァレリアに治してもらった時のようだ。
医者に傷口を縫合してもらった時などは、抜糸後しばらく皮膚がつっぱったりするものだが、そういう感覚もない。
完璧に元通りだった。
「ユリアナ。
いったいお前は何者なんだ」
死者を生き返らせる魔法。
ランベルトやベランジェールは、そんなもの聖書の中にしか存在しないと言って否定した。
勇輝が「実際に今日この目でみたんだ!」と言っても信じようとしない。
死んだように見えて実はギリギリ生きていたのだろう、なんて言われる始末だった。
そんなはずはない。
あの女の子は確実に死んでいた。
首から噴水のように血がふき出して、その血が出なくなったのだ。
あえて確認はしなかったが、心臓が止まったからそうなったとしか思えない。
勇輝の血は女の子の血のかわりに使われたのだ。
技術的な説明はできないが、おそらくそういうことだろう。
死者を生き返らせる魔法は存在しないという。
だがユリアナは死者を生き返らせた。
あり得ないことがおこった。
奇跡。
奇跡の力をもつ女。
それはまるで聖女ではないか。
「もしかして、エウフェーミアのほかにも聖女っているのかな……?」
つらつらと思いをはせながら仮設ハウスの天井をながめていると、何やら外がさわがしくなった。
『ユウキ! ユウキ・アイザワがここにいるだろう!
お前たちが聖女とよぶ女だ!』
建物が振動するほどの大音声だった。
聞き覚えのある女の声。
おそらく守護機兵のスピーカーごしに声を出している。
「ユリアナの声だ、ユリアナ!?」
勇輝は走って仮設ハウスを飛び出した。
おどろくほど早く息切れがはじまる。
まだ失った血が回復していないのだ。
しかしそんなことは気にしていられない。
もう一回だけ会いに来る。
ユリアナはそう言ったのだ。
もう一回だけ、と。
今回をのがしたら、もう二度と会えなくなる。
声のする方へ勇輝は走る。
フラつく身体をおして走りつづけた。
『来たな、ユウキ』
開けた草原のただ中に、巨大な純白の天使が立っていた。
熾天使型の守護機兵。
以前戦った黒い天使と同型別色の守護機兵だった。
「な、中にいるのは、ユリアナなのか?
そうなのか!?」
勇輝の問いには答えず、白い天使は自分の要件をつたえようとした。
『……人質を解放する。
受け取って』
天使は一方的にそういうと片ひざをつき、搭乗席のハッチをひらいた。
その中から二人の女性が姿をみせる。
オオオオオ……!
まわりで見守っていた聖騎士たちが、女性たちの姿をみて騒ぎだした。
出てきたのは間違いなくジェルマーニアの皇女マリアテレーズ。
そして巻き添えになっていたミーシャだった。
天使は右手を差し出して「ここに乗れ」と二人にピールする。
しかし片ひざをついていても数メートルの高さである。
淑女二人には怖すぎて無理なようで、パイロットが手助けしなくてはいけない様子だった。
仕方がない、といった顔で中にいた人物が姿を見せる。
出てきたのはやはり見覚えのある女だった。
「ユリアナ、やっぱり!」
勇輝とユーリ、二人の視線が交差する。
ユーリはとても気まずい表情をしていた。





