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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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二人の力

 ユーリの言葉を聞いても勇輝は半信半疑だった。

 いや半分どころか八割、九割まで疑った。

 相手の女の子ははあきらかに死んでいる。

 高位聖職者であるヴァレリア・ベルモンドでさえ、死人は生き返らせられなかったというのに。


「本当になんとかなるのか!?」

「ええ」


 おびただしい血だまりの中に足を踏み入れようとするユーリ。

 しかし従者であるグレーゲルが前をさえぎった。


「おやめください、御身おんみにご負担がかかりすぎます」

「やらせてくれ」

「いけません。そもそも御身を犠牲ぎせいになさったとしても、うまくいく保証はございますまい」


 ユーリはグレーゲルをにらんだ。

 しかしグレーゲルはゆずらない。


「な、なんだよ、やっぱり無理なのか」


 肩すかしをくったような勇輝の表情をみて、ユーリは頭の中がカッと熱くなった。


 ――このユウキにだけは軽蔑けいべつされたくない!


 なぜだか分からないが、強烈にそういう感情がわきあがる。


「できる!」

「いけません!」


 グレーゲルは語気を荒げて止める。

 嫌われようと恨まれようとかまわない。

 彼の忠誠心には常にそれだけの覚悟がある。


 しかし主君がムキになる理由は勇輝にあるということも理解し、宿敵に明かしてはならないはずの情報をあえて伝えた。


「このお方の秘術はきわめて繊細せんさいかつ、高度なものだ。

 そして生命力の譲渡じょうとはお身体に深刻な負担をかける。

 両方同時におこなえば、このお方の命が危険なのだ!」


 だからあきらめろと、そういうつもりでグレーゲルは言った。

 しかし勇輝は引き下がらなかった。

 こちらも聖女として数々の奇跡を成してきた人物である。

 不可能を可能にするために必要な最低条件を、すでに実体験として学習していた。


 それは考えることをあきらめない、ということ。

 一つの方法に執着せず、柔軟じゅうなんに方法をさがすこと。


「両方同時がヤバいってんなら、片方だけならどうだ」

「なに?」

「俺も聖女だ。何かできることはないか。

 できることなら何でもするぞ!」


 勇輝の紅い眼が情熱と信念に燃えている。

 グレーゲルは不覚にも彼女の気迫に圧倒された。


「……なんでも、というなら一つだけお願いできることがある」


 ユーリはつぶやきながら血だまりの中を進む。

 ベチャ。ビチャ。

 犠牲となった女の子には申しわけないが、足に不快で不浄な音と感触が伝わってくる。


「わかった! 言ってくれ!」


 勇輝もバチャバチャと小走りで女の子の遺体に近づく。

 血がはねて靴や服が汚れる。

 だが文句は言わない。


「よし、ならあなたの血液を大量に、この子にかけて。

 なるべく大量の魔力をこめて、この子の上から、大量に」

「…………!?」


 さすがに即答はできなかった。

 だがためらったのはほんの一瞬だ。


「わかった!!」


 ジャキン!


 勇輝は地面に魔力を流し、大きめのナイフを作り出した。

 右手でナイフを握り、左の手首に当てる。


「ウ、ウオオオオーッ!!」


 獣のようにえながら、勇輝は自分の手首を切り裂いた。

 傷口から鮮血があふれ出る。


「ぐぅぅ……! ウオオオーッ!!」


 激痛に負けぬよう、大声で叫ぶ。

 叫びながら全力で魔力をこめる。

 全身から脂汗がふき出し、歯がくだけそうなほど食いしばっている。

 痛くないわけがない。

 辛くないわけがない。

 だが、それでも、勇輝は正義の味方だから。


 ユーリは鮮血にみなぎる魔力のすさまじさに驚愕きょうがくした。


「こ、これほどの力……!?

 これなら充分だ!」


 ユーリが犠牲となった少女に祈りをささげる。

 次の瞬間、少女の死体は黄金の光につつまれた。






「ウ、ウワアアアン! ウワアアアン……!」

 

 近くで見守っていた住民たちは血まみれで泣き叫ぶ少女をみて、言葉もない様子だった。

 愛娘を永遠に失ったと思っていた母親が、もう一生はなさない、というくらい強く抱きしめている。

 たしかに死んでいたはずの少女は、すっかりケガもなく生き返っていた。

 

「やれた……! やれたよ、私……!」


 荒く息をつきながユーリが笑顔を見せる。

 目には涙がうかんでいた。


「すげえ……!」


 勇輝も大いに感動していたが、こちらは顔色が真っ青だ。


「あ……」

「危ない!」


 大量出血で意識が朦朧もうろうとしている。

 倒れかけたところをユーリが抱きかかえた。

 が、ユーリには平均以下の腕力しかなかった。


「お、重い! 手伝ってグレ……ねえそこのあなた! 早く!」

「わ、私がこの女を!?」

「早くッ!!」

 

 なんとグレーゲルは勇輝をお姫様だっこで抱きかかえるハメになった。

 すさまじく複雑そうな表情をしている。

 彼の表情をみて、勇輝は謝罪した。


「ゴメンねぇ、重いでしょ……」

「いや……」


 重量に関しては問題ない。

 問題は主義主張的な部分にある。

 いっそこのまま殺してしまえば。

 もちろんそう考えなくもないのだが、あまりにも住民たちの視線が集まりすぎていた。


 住民たちはまるで神様でも見るかのような顔で三人を見ている。

 さすがにこの状況では。


「このまま仲間のところまで運んであげましょう」


 そう言いながらユーリは勇輝の手首を魔法で治療ちりょうした。

 命にくらべればこんなの、簡単なものだ。


「ありがとう、すごいねユリアナ」

「ううん、あなたがいたから。

 一人ではきっと無理だった」


 勇輝は抱えられながら。

 ユーリは徒歩で。

 ゆっくり進みながら二人は言葉をかわす。


「ねえユリアナ」

「なあに?」

「もう普通にしゃべってよ、ホントはもっと男っぽいしゃべりかたなんでしょ」

「う……」


 芝居しばいがバレていたことを知って、ユーリはバツが悪そうな顔になった。


「き、キライになったり、しない?」

「するわけないって。普段は俺のほうがひでぇよ」

「なら、そうしよう」


 そんなようなことを会話しているうちにリグーリアの街を出て、聖騎士団の野営地キャンプに到着した。

 見張りの騎士に勇輝を引き渡して、ユーリとグレーゲルの二人は来た道を戻ろうとする。


「ユリアナ!」


 騎士に肩を借りた状態で、勇輝が呼びとめる。


「また会えるよな!?」


 ユーリは答えにしばらく迷ったが、やがて決心した。


「そうだな。もう一回。

 もう一回だけ会いに来るよ」


 それで終わり。

 永遠に終わり。

 その言葉は口にしないまま、ユーリは立ち去った。

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