空転するユーリの想い
ユーリやグレーゲルの気持ちなど気づくはずもなく、勇輝は嬉しそうな笑顔でクリムゾンセラフから降りてきた。
ちなみにグレーゲルは街に入る前から魔法で変装している。
ユーリとおなじ黒髪・黒目の若い男性の姿だ。
「セラ、中に!」
『はい』
勇輝が命じると、クリムゾンセラフは指輪の中に吸い込まれていった。
この少女をこれから殺さなければならない。
だがどうやって。
おかしなやり方をすれば、指輪の中から天使が出てきてこちらが殺される。
ユーリは緊張しながら話しかけた。
「き、今日はどうして街の中に?」
「港に補給物資がとどいたんで、それを運んでたんだよ」
「ああ、それで」
そんなことを話していると、ちょうど真上を大きな影が横切った。
聖都の飛行型守護機兵。たしか《銀の鷹》とかいう。
巨大な鷹は両脚で大きな箱を運んでいた。
「あなたはやらなくていいの?」
「ああ、思ったより少なくてさ。いま上を通ったので最後だよ」
機密情報だと思うのだが、あっさり教えてくれた。
「でさ、もし良かったら、ちょっと話でもできないかなって」
「う、うん、いいわよ」
思いもよらずチャンスが来てしまった。
ならんで歩きはじめる勇輝とユーリ。後ろにつづくグレーゲル。
グレーゲルの眼に殺気がみなぎってくるのを、ユーリは眼で制した。
ここは人目につきすぎる。
せめて人気のない場所にいかなくては。
「それで、どんな話がいいかしら?」
「うん、ここの人たちの話とか聞けたらなあって。
どうも俺たちけっこう邪魔者あつかいされているようなんだ」
「…………」
ユーリの背中に冷たい汗がにじんだ。
芝居の上手な人間ばかりではない。
あからさまに嫌悪感をしめして不審がられる者もいるようだ。
「ま、まあ人づきあいの上手な人ばかりではないでしょうし?
余所者とどう接したらいいか分からないのかもね?」
「うーん、そっかあ色々聞いてみたいこともあるんだけどなあ」
「それはどんなこと?」
「ああ、大森林の奥で変わった雰囲気の教会を見つけたんだ」
ザワッ!
瞬時にグレーゲルの髪が逆立ち、両眼が金色に輝きだす。
ユーリはあわててごまかした。
「そ、そう、私も聞いたことだけはあるわ!
大昔の聖人をまつっているとかいう話よ!」
話しながら後ろに手をふって『おさえろ、おさえろ!』とグレーゲルに命じる。
「……いまなんかすんげえ魔力ださなかった?」
勇輝がふり返った時、グレーゲルは黒髪の姿に戻っていた。
「失礼。あの場は我々にとって非常に価値ある遺跡なので」
「そうですか。勝手にはいっちゃってスイマセン」
あまり心がこもっているとも思えない謝罪の言葉に、グレーゲルは不快感をかくしきれずにいた。
(危ういなあ)
ユーリは思う。
やはり聖都の連中をこの地に長居させるべきではない。
住民感情に関しても、秘密を守ることに関しても、長く居れば居るほどにボロが出てくるのはあきらかだ。
(やはりユウキたちには帰ってもらったほうがいい)
そう考えざるをえない。
殺せ、という命令はやはりユーリの性分にはあわなかった。
勇輝はよく笑い、よく驚き、よく動き、よくしゃべる。
にぎやかな彼女の性格を、ユーリはだんだん好きになってきてしまった。
(もしこの子が私たちの同士だったなら、きっと親友になれるのに)
無意味なことを想像してしまって、ユーリは首を左右にふる。
そんな時だった。
突然、勇輝がユーリの手をにぎってきた。
「えっ」
ドキッとした。同性なのに。
いきなりどういうつもりなのかと彼女の顔を見たが、勇輝の表情はさきほどまでの笑顔から一変。険しい戦士の顔になっていた。
「ユリアナ、俺から離れるな。うしろのアンタも」
勇輝は歩いていた通りの前後を順番ににらむ。
そこには帽子とコートを身につけ、口元を覆面でかくした不審者たちがいる。
前に三人、うしろに三人、あわせて六人。
全員顔をかくしている。これはあきらかにおかしい。
瞬間的にグレーゲルを見た。
グレーゲルは首を横にふる。
彼の仕掛けではない!
これは彼女たちも知らない人間が仕向けた刺客だ!
まわりには無関係の人間たちが歩いている。
にもかかわらず、六人の刺客は一斉にナイフをかまえて襲いかかってきた!





