輝けるリグーリア
二日目の昼。
一行は無事リグーリアに到着した。
脱落者や死者はゼロ。
まずは予定通り順調である。
「うわーキレイな所だなあ!」
「うん! すごい!」
勇輝とルカははじめて見る聖都以外の街に感激した。
衛星都市リグーリアは、聖都ラツィオとはまたちがった美しさにあふれた都市だった。
海の青。
空の青。
自然の緑。
レンガ造りの街は黄色やオレンジ色など、彩り豊かな建物ばかりで見ていてあきない。
市場には新鮮な魚介類と柑橘系のフルーツがたくさんならんでいる。
このぶんなら夕食は期待できそうだ。
大きな港にはいくつもの船が停泊していた。
その中に見覚えのある聖都の守護機兵《魚人》の姿もある。
「さすがはマキシミリアン殿だ、まさか補給物資のほうが先につくとはな」
《魚人》の姿を見てランベルトが感心していた。
今回は第五騎士団も補給部隊として参加している。
第五騎士団長マキシミリアン・ロ・ファルコは生真面目を絵にかいたような男だ。
聖女と遊撃隊長が参加する今回の作戦はマキシミリアンからすれば敵対派閥の仕事である。
だがそんな理由で手をぬいたりしないのが彼の良いところだった。
「さあまずは行政官殿にあいさつをしに行こう。
ベランジェール嬢、それとユウキも来てくれるか」
ランベルトにそう言われて、三人はまずリグーリアの政庁へおもむいた。
美形二人とならぶのはイヤだとか、またベラン先輩が駄々(だだ)をこねたが今回は割愛する。
「やあこれは遠いところをようこそおいで下さいました。
聖都を代表する若いお三方にいらしていただいて光栄に思いますぞ」
政庁で三人を待っていたのはリグーリア行政長官イバン・デ・ガルディーニ司教だ。
ニコニコと愛想よく笑う痩せた初老の男。
肉体的な能力などまるでなさそうな、典型的な聖職者だ。
「恐縮です。
今回は大森林の調査を命じられまして、このリグーリアに駐屯させていただくこととなりました」
「はいはい聖都からすでに連絡は来ております。
しかしなにぶん聖都にくらべれば小さな街、たくさんの機兵をいれられるような施設はありませんので……」
「ご心配にはおよびません。
基本的には街の外で野営をはらせていただきます。
住民をいたずらに刺激するようなまねはしないと誓います」
「いやあ恐れ入ります。
お若いのに頼もしいお方だ」
こんな感じでトントン拍子に話はすすむ。
勇輝とベランジェールはほとんど何も話すことがないまま、面会は終わった。
「よさそうな人だったね」
「ああ、とりあえず心配はなさそうだ」
帰り道を歩きながら、勇輝とランベルトが言葉をかわす。
その後ろで、ベラン先輩が何度も首をかしげていた。
「うーん……」
「どうしました先輩?」
「いやぁ……この街ってもっと明るかったような気がするんだけどなぁって」
「へえ?」
彼女の言葉の意味が勇輝にはわからなかった。
街も自然も美しさにあふれていて、まさに風光明媚とよぶにふさわしい。
すばらしい街だとおもうが。
「まぁそうなんですけどぉ、なーんかこう、澱んだような感じが……」
「ふーん……」
やっぱり勇輝にはよくわからなかった。
「本当にみずから行かれるおつもりですか」
「ああ。この目で敵を見ておきたい」
ここは大森林の奥地。
《呪われし異端者たち》の地下城。
ユーリとグレーゲルが密談をかわしていた。
「危険です。
御身に何かあったらどうなさいます」
「危険は承知だ。
だがどうしても知っておく必要がある。
お前のいう偽善の魔女の正体、この私自身が見極めなければいけないのだ」
紅瞳の聖女ユウキ・アイザワがすぐそばまで来ている。
ユーリは一度みておく必要があると言ってきかないのだ。
「お前がなんと言っても私はリグーリアに行くぞ。
あのエウフェーミアの分身、私と兄上の宿敵となる運命の女だ」
いつになく強硬なユーリの態度に、とうとうグレーゲルのほうが折れた。





