信じあう二人、信用しない二人
「連れの者が苦しんでおりますの」
マリアテレーズは壁によりかかかっているミーシャを助けるよう求めた。
エンリーケに首をつかまれてからすでに数時間はたつというのに、ミーシャの体調は戻らないままだ。
「それもあってここへ来たのだ」
ユーリはミーシャの前にヒザをつき、肩に手を当てた。
一見様子をみているだけだったがミーシャの顔色がグングン良くなっていく。
「あ、あら?」
ミーシャは不思議そうな顔で自分の手や身体を見ている。
わずか五秒ほどで、彼女の体調はすっかり良くなった。
「これで心配はいらない、……ッ!?」
立ち上がったユーリの身体がフラついた。
「ユーリ様!」
グレーゲルが彼女の背をささえる。
一連の様子を見て、マリアテレーズはユーリにたずねた。
「もしかしてお兄様とは正反対の能力を持っていらっしゃるの?」
兄は奪う能力。
妹は与える能力。
「まあそんなところで」
ユーリはあらためて姿勢をただし、マリアテレーズに向き合う。
「いつ、と約束はできないが、あなたたちを解放できるよう取りはからうつもりだ。
部屋ももう少しましな場所を用意させる。
なので怪我をするような行為はご遠慮ねがいたい」
「善処いたしますわ」
もとより荒っぽいことなどなに一つできない高貴な身分の令嬢二人。
身の安全を保障してくれるなら確率のひくい冒険はしない。
「ですが、わざわざ立場を悪くしてまで解放していただくことも無いように思いますわ」
「それはどういう?」
「今ごろ聖女がこちらに向かって来ているはずですから」
ギロッと金の瞳を光らせ、グレーゲルがにらむ。
ユーリは目線を送って何もするなと命じる。
「あの子がジッとしているわけありませんもの。
そのうち迎えが来ますわ」
「ずいぶんと信用なさっているようで」
ええ、とマリアテレーズは胸をはる。
しかしその理由はあまりにもシンプルであった。
「あの子は聖女なので」
シンプルすぎて理由らしい理由になっていない。
ユーリとグレーゲルは顔を見あわせた。
「確かにおかしな理由ですけれど。
あの子はこんな理由で武装テロ組織と戦って、そしてたった一人で勝ったことがありますのよ」
――俺は聖女だから。
たったそれだけの理由で旧第三騎士団と激闘を演じたのは、ほんの数か月前のことである。
「だから今回もかならずあの子は来ます。
そして勝ちますわ」
確信にみちた表情で断言するマリアテレーズを見て、異端者二人は深く考えさせられてしまった。
部屋をあとにし、ユーリとグレーゲルは廊下を歩きながら相談する。
「聖都の様子は?」
「皇女の救出部隊がすでに出発しました。
聖都からこの大森林に進軍してくる部隊がおよそ40。
補給部隊が同じかそれ以上だと。
森林の西にあるリグーリアの街を拠点にするとのことです」
「……情報がやけに具体的だな」
「騎士団内部にまだ手の者が残っております」
手の者とは、第四騎士団長フォルトゥナートである。
「そのこと、兄上には?」
グレーゲルは静かに首を横にふった。
「あの様子では知らせたとたんに、また飛び出して行ってしまうでしょう」
「そうだな、兄上には秘密にしておこう。
しかしリグーリアか……」
ユーリは少し考え、口をひらく。
「こちらも黙って隠れているわけにはいかないようだな」





