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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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囚(とら)われの二人

「ふん、とんだ来訪になってしまったな。

 これも運命というものかもしれん」


 傲然ごうぜんと胸をそらす男に対し、ミーシャは健気けなげにも対抗する。


「な、なにが運命なものですか。

 このような無法な手段で誘拐ゆうかいしておいて!」


 精いっぱいきつい言葉を選んで責めているつもりだが、声もヒザもふるえている。

 男を嘲笑ちょうしょうさせる効果しか生まれなかった。


「べつにオレが連れてこいと命じたわけでもないのだがなあ」 

「か、勝手な言いわけを!

 私たちを今すぐ解放しなさい!」

「別にかまわんが」


 男は目を大きくひらき、酷薄こくはくな笑みを浮かべる。


「このあたりは悪魔ディアブル巣窟そうくつだ。

 あっという間に食い殺されてしまうのがオチだが、本当にそれでいいのか?」


 うっ、とミーシャは言葉につまる。


「悪いことは言わん、当分は大人しくしておけ。

 もしかしたら新しき世界の到来とうらいを特等席でおがめるかもしれんぞ?」

「な、なにを……」


 男はミーシャにむかってグッと顔を近づけた。


「ヒッ」

「今のうちによく見ておけ、いずれ世界の王になる男の顔だ。

 ハハハハハハ!」


 男は大きな目でミーシャをにらみながら高笑いをする。

 彼女の抵抗など男にとっては無いも同然だった。

 

 次に男は無言で座ったままのマリアテレーズ皇女に視線をうつす。

 皇女殿下はじっと男の顔をにらんでいた。


「貴様が皇女か。

 なるほど美しいが、ただの女にすぎぬではないか。

 なにか特技のひとつでも持ってはおらんのか?」


 まったく礼儀というものを考えない男の態度に、ミーシャは危険を感じた。

 なにか大きな問題になる前にと、両者の間に入って視界をふさぐ。


「ぶ、無礼者! ジェルマーニア帝国の皇族に対してなんたる振る舞いか!」

「そんなものオレには関係ない」


 男は右手をのばし、ミーシャの首をつかんだ。

 ほとんど力はこめられていない。

 にもかかわらずミーシャはなぜか身動き一つとれなくなった。


「この世のすべてはいずれオレのものになるのだ。

 皇族? 帝国? それがどうした!

 道ばたをふさぐ小石にすぎぬわ!

 蹴散らして進むのみよ!」


 いまだかつてここまで傲慢ごうまんな男を、ミーシャは見たことがなかった。

 ここまで深刻な者は貴族社会にもいない。

 いったいなにを根拠にこんな。


「信じていないな?

 なら少しばかり見せてやろうか!?」


 男の目つきに凄味すごみが増した。

 

 殺される!


 そう感じたミーシャは反射的にグッと目をとじた。

 だが男の行動をマリアテレーズが止めた。


「お待ちなさい」


 大きくはないが、不思議とよく通る声だった。

 おしゃべり好きの貴族令嬢たちを制御するために身につけたものだ。


「確かにわたくしにはこれといった特技がありません。

 でも人脈じんみゃくはあってよ」

「人脈だと?」


 男は嘲笑あざわらった。

 監禁されている人間が他人の名前を持ち出してなにになるというのか。

 しかし次の言葉を聞いて、嘲笑は怒りに変わった。


「今ごろ紅瞳の聖女がわたくしをさがしに来ているはずです。

 無駄な抵抗はやめたほうが賢明よ」

「なにぃ!」


 男はミーシャから手を離した。

 解放されたミーシャはその場にくずれ落ちる。


「このオレがあんな小娘に負けるというのか!」

「ええ。あの子に常識は通用しなくってよ」

「貴様!」


 男が皇女殿下に襲いかかろうとするのを見て、後ろで黙っていた配下の者たちが止めにかかった。


「いけません、皇女を手にかけてはジェルマーニアと全面戦争になりかねません!」

「それがどうした! なんの問題もないぞ!」

「ラツィオとジェルマーニアの両国からはさみうちになるのは、さすがにいけません! ご辛抱しんぼうを!」

「ぐぬぬ……!」

 

 誰も味方してくれる者がいないことを知り、男はマリアテレーズへの暴行をあきらめた。


「今の態度、きっと後悔するぞ!」


 捨てゼリフを残して、男たちは去っていく。

 マリアテレーズはミーシャを抱きおこした。


「大丈夫?」

「も、申しわけございません……」


 ちょっとの間つかまれていただけなのに、ミーシャは異様に疲労していた。

 やはり何かされていたのだ。

 マリアテレーズが止めなければ、ミーシャは今ごろ本当に殺されていたのかもしれない。


「あなたどうして、わたくしをかばったりしたの」


 マリアテレーズがいなくなれば彼女は心おきなくパウル皇子と幸せな生活が送れるのに。

 それなのにミーシャは前に立ってマリアテレーズを守ろうとした。


「殿下、私も帝国貴族のはしくれでございます。

 我が身可愛さに皇族を見殺しにしたとあっては、先祖に申し開きができません」


 ミーシャの言葉にマリアテレーズは胸が痛んだ。


「わたくし、貴女という人を誤解していたわ。

 いいえそもそも理解しようともしていなかった。

 貴女にも貴女の気持ちがあったのにね」

「殿下……」


 閉じ込められた女二人。

 選択の余地はほかになく、力をあわせて立ち向おうという意識が芽生えはじめていた。

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