ヴァレリアの寝室で
こんな時に眠れるわけがない。
そう思う勇輝であったが床についた瞬間、泥のように眠ってしまった。
そして3、4時間後に目がさめる。
気分最悪の目覚めだった。
体がだるい。頭痛もする。
理由が疲労と睡眠不足にあることは承知していたが、これ以上寝てなんかいられなかった。
「え~! ユウキ様ひどい顔ですよう!?」
メイドのジゼルが勇輝の顔色を見かねてパタパタと駆けつける。
「お顔がまっ青~!」
ジゼルが心配そうに勇輝の顔へむかって手をのばす。
しかし。
パシッ。
勇輝は不機嫌そうな表情のまま、ジゼルの手を乱暴に払いのけてしまった。
「えっ……」
ジゼルの顔が恐怖に引きつるのをみて、勇輝は我にかえった。
「あ、ご、ゴメン!
つい、あの、寝ぼけてて!」
何やってんだ。勇輝は自己嫌悪した。
たしかに寝ぼけていた。
体調も悪い。
強いストレスをかかえてもいる。
だからってジゼルに八つ当たりするなんて。
「あの~本当に体調わるいんじゃ~?」
「まあそうだけど……大丈夫だよ。ごめんね」
ふらつく身体に鞭うって勇輝は歩いた。
今度こそ。
今度こそ必ず助け出すんだ。
食堂に行くとすでにランベルトが待っていた。
「……早いね」
「ああ、うん」
歯切れの悪い言葉に、勇輝はなんとなくさっした。
「もしかして眠れなかった?」
「いや寝たよ、1、2時間は」
「俺より短いじゃないか」
苦笑するしかない。
なんだかんだあっても、勇輝の神経は図太いのだ。
「出る前にヴァレリア様に挨拶をしておこう。
ユウキにも会いたがっている」
「意識が戻ったのか!?」
暗いニュースばかりの中、ようやく届いた明るいニュースだった。
「ああ、もう大丈夫だよ。命に別状はない」
「会おう!」
「……くれぐれも静かにね」
「あっハイ」
二人はヴァレリアの私室にむかう。
部屋のドアをランベルトがノックすると、クラリーチェが姿を見せる。徹夜で看病していたのだろう。彼女の顔もやつれていた。
昨夜二人が北から逃げ帰ってきたのをすでに知っているようだ。勇輝の青い顔色を見てもかるく微笑むだけだった。
部屋の中へ通される。
ヴァレリアは大きな天蓋つきベッドで横たわっていた。
「こんな姿でもうしわけありませんね」
「なにを言うんです」
ヴァレリアを苦しめた魔毒はすでにほぼ無効化に成功し、命の危機はさったらしい。
だがまだ絶対安静である。
「黒い天使型機兵と、それにあやつられる悪魔の群れ、だそうですね」
「はい」
フウ、フウ、とヴァレリアの呼吸は苦しそうだ。
額に浮いた汗をクラリーチェがふいている。
やはりまだ休んでいるべきなのだ。
しかしヴァレリアは軍の長官として最低限の責任をはたそうとした。
「前代未聞の能力です。悪魔をあやつる、など……ゴホッ!」
激しくせき込む養母の背を、クラリーチェがかいがいしくさする。
「情報収集を最優先するのです。
質も量も特性も不明では、味方に大きな損害が……」
苦しげにつぶやくその言葉を勇輝は胸にきざんだ。
脳筋な騎士たちは「邪教徒だから」などという安易な言葉で結論づけたがってしまう。
だが精神が邪悪だから悪魔と仲良し、などという簡単な理由ではないはずだ。
必ずなにか理由がある。思いもよらないような発想と技術が。
「わかりました、かならず」
勇輝はヴァレリアの手を取って握りしめる。
「ご武運を……」
それだけいうとヴァレリアは目をとじた。
これ以上の会話は無理だ。それにもう十分だろう。
あとのことはクラリーチェにまかせて勇輝とランベルトは聖都北部、第二騎士団のもとへむかった。





