涙
『ユウキ、たった四人でこれ以上の追撃は無理だ!』
群がる悪魔たちを蹴散らしながら、ランベルトがさけんだ。
「バカ言うな! まだいける!
二人を見殺しにしろって言うのか!」
マリアテレーズ皇女とミーシャをのせた馬車は闇夜の奥へ消えた。
だがまだ近くにいるはずだ。
方角さえ間違えなければ追いつける。
『夜の森だぞ、見つかるわけがないだろう!』
森林地帯の夜というものは市街地の暗さとは次元がちがう。
木々の葉におおわれた地面は光がまったく届かず、自分の手足すら見えなくなるほどなのだ。
勇輝が一度あの馬車を見つけられたのは、馬車が聖都からつづく一本道を進んでいたからだった。
空を飛びどことも知れない場所へ行ってしまった以上、再発見は絶望的。
勇輝にだってそれくらい理解できる。
理解できるが、感情が許さなかった。
あの馬車にはマリアテレーズ皇女殿下が。
友達が、乗っていたのだ。
なんとしても助けたい。
助けなければいけない。
自分がこの手でやらなければいけないのだ!
『お前はルカを殺す気か!』
思いもよらぬセリフを言われて、冷水でもぶっかけられたかのような気分になった。
『ルカにはもう帰還するだけの魔力しか残っていない!
空を飛べないラースも暗闇の森へ入れば確実に死ぬ!
お前と私だけでこの数と戦えるわけないだろう!』
「くっ……」
戦力がたりない。
というかそれ以前に勇輝だってかなり消耗している。
『奴は二人のことを人質と呼んでいただろう!
殺してしまっては人質にならない、しばらくは無事なはずだ!
戦力を整えるために一度聖都に帰還するんだ!』
「う、ううっ……」
『私を信じろ! 無駄に命を捨てるな!』
「ち、ちくしょおっ!」
勇輝は聖都の方角へ逃げ出した。
逃げながら羽根爆弾を夜空にまき散らしていく。
ッゴゴゴゴオオオオオンン……!!
後ろ姿を追いかけようとした悪魔の群れが、怒りの羽根爆弾によって何体も消し飛ばされた。
しかしそれでも敵の数は圧倒的に多い。
たった一人の怒りでは、どう頑張ってもかなわない願いだった。
勇輝たち四人は追撃をふりきって聖都へ帰還する。
逃げながら勇輝は泣いた。
ずいぶん久しぶりの涙だった。





