味方の増援、敵の増援
「ランベルトの兄貴!
ヴァレリア様のことはいいのか!」
スクリーンにランベルトの顔がうつし出される。
色々と複雑そうな表情をしていた。
『……猊下にはクラリーチェがついている。
あそこに自分がいても役に立てなくってな。
それとも余計なお世話だっただろうか?』
「い、いや助かるよ、ありがとう!」
いつものランベルトらしくない、トゲのある言いかただった。
義母の重体にやはり大きく動揺しているらしい。
『状況は?』
「メッチャうさん臭い馬車を追撃中!
男が笛ふいたら悪魔がこんな出てきた!」
『……笛?」
「わからん! 怪しいんだ!」
『よし、まあいいさ』
ランベルトは地上に着陸した《ネクサスⅢ》と《鉄騎士》にも声をかけた。
『聞いての通りだ、二人は地上から援護してくれ』
『うん!』
『了解! あっでもちょっと待った!』
ラースが追加要求をのべた。
『あの馬車うちの商会のなんだよ、できたら壊さないでくれ!』
そもそも捕まえられるかどうか、という話なのにムシのいい要求を。
しかし断るのもどうかと思うので、勇輝はあいまいに答えた。
「やるだけやってみるよ!」
クリムゾンセラフは翼を羽ばたかせ、地上を逃げる馬車をふたたび追撃する。
真横にランベルトの《神鳥》がついて援護してくれた。
「兄貴、夜戦はできるのか?」
『正直きびしいな。ろくに敵が見えない』
やっぱりな、という回答だった。
《神鳥》は勇輝がつくった守護機兵である。暗視装置はまだない。
「だったらもういっそ明るくするぜ!」
勇輝はクリムゾンセラフの暗視装置を停止した。
そして羽根を数本ひき抜いて、まん丸い玉につくり変える。
「光るぞ、みんなちょっと目をつぶれ!」
作ったばかりの玉を前方上空へむかって投げる。
直後、玉は小さな音をたててはじけた。
ポンッ!
はじけた玉の中から落下傘が出てきて空にひろがる。
そして落下傘で吊るされた小玉がまぶしく輝きだした。
昼のように、とまではいかないがけっこうな明るさである。
『さすがだよ!』
ランベルトはギラリと眼を輝かせ、《神鳥》を突撃させた。
『オオオオッ!』
《神鳥》の全身が小型の竜巻につつまれる。
小型悪魔にすぎないコウモリの群れはなすすべなく蹴散らされた。
「気をつけろ、敵の中にフクロウがいる!
音もなく近づくからかなり危ねえ!」
『了解だ!』
義母を傷つけられた怒りを闘志にかえ、ランベルトは猛然と戦った。
『えやぁー!!』
どことなく気の抜けるようなルカの声。
《ネクサスⅢ》が両手から小さな光弾を連続ではなって魔獣を塵に変えていく。
ズドドドドドドッ!!
景気よく光弾が戦場にバラまかれていく。
正面の敵はうかつに近づけなくなった。
『おい、調子に乗って使いすぎんなよ!
こんなとこで魔力きれたら死んじまうぞ!』
『うん! あ、ヨコからくるよ!』
『まかせろって!』
――グアアアオオ!!
『セイヤァーッ!』
光弾の間をぬって接近してくる個体はラースの《鉄騎士》が迎撃する。
聖騎士たちにきたえられて、彼の白兵戦能力はかなり向上していた。
遠距離の《ネクサスⅢ》。
近距離の《鉄騎士》。
即席だがいいコンビだ。
「いいぞ、これなら……!」
三人が助けにきてくれたおかげで戦いの流れが逆転した。
これで馬車を追うことができる。
「まだ間に合う、もう逃げられないぜ!」
舗装もされていない山道である。
ガタガタと絶え間なくゆれる馬車の速度はかなり遅かった。
「待てーっ!」
逃げる馬車をクリムゾンセラフが猛追する。
悪魔の妨害が多少はあったが、そんなことで勇輝を止められはしない。
もうすぐだ。
あと数十メートル。こんなの一瞬でとどく距離だ。
勇輝はクリムゾンセラフの手をのばした。
つかめる!
そう思った瞬間だった。
横から何者かが飛び出してきた。
金属製の盾だ。
大きな影が盾を前面に押し出してタックルをかましてきたのだった。
ガシャアアン!
「ぐわあっ!」
金属と金属がぶつかりあう轟音が戦場にひびいた。
どうにかバランスを維持して空中に逃げる勇輝。
「なんだ今のは!」
態勢をととのえた勇輝を見上げていたのは、なんと黒い天使だった。
黒い翼。
黒い甲冑。
黒い小型の盾。
黒い剣。
まぎれもなく天使の姿をした守護機兵だ。
「セ、熾天使タイプ!? なんで!?」
黒い熾天使は地上から飛びあがり、クリムゾンセラフと同じ高度になる。
敵は勇輝にむかって武器をかまえた。





