闇夜の大苦戦
地上の敵だけなら空を飛べばさけられる。
だが残念ながら空へ飛びあがる敵影も見えた。
「コウモリ……か?」
悪魔としては小柄な影が闇夜を飛びまわっている。
攻撃力は低そうな印象だがどういう能力を持っているのか分からない。
そして空だけではなく地上にも何種類かの悪魔が目を光らせているのが見えた。
「ホラー映画だなこりゃ……」
地面に魔力をおくって迎撃準備を進める勇輝。
しかし恐怖でちょっと手足がすくんだ。
暗視装置による暗緑色の視界。
無数にならぶ樹々のすきまから殺意にみちた光る目がこちらを睨んでいるのだ。
こちらはたった一機。
さすがに不利だ。
「チッ」
魔獣の群れにクリムゾンセラフが食い殺されるイメージを幻視して、つい逃げ腰になる。
『退きますか、ユウキ様?』
「退くのも楽じゃなさそうだけどな」
セラと会話しているうちにも魔獣は包囲網をせばめてくる。
第一陣が一斉に飛びかかってきた!
「槍ッ!」
勇輝が叫ぶと同時に機体の周囲、360度全部の地面から鋭い槍が突き出してきて、数体の悪魔を串刺しにした。
「オオオッ!」
勇輝は即席の槍によって出来あがった陣地的なエリアにはこだわらず、左右の手に一本ずつ槍をにぎって走り出した。
この戦いは速さが重要だ。
敵にかこまれたら終わり。
しかし馬車の中身をゲットできれば勝ちだ。
まだ負けと決まったわけではない。
勝機はある。
――コケーッ!
次に襲いかかってきたのはなんと巨大なニワトリだった。
いったいどんな思念があつまればこんな悪魔になるのやら。
考えているひまもなく勇輝は鳴き叫ぶ口の中に槍を投げつけて退治した。
――ガアッ!
次にきたのはクロヒョウだ。
こちらは一刺しで撃破することはできず、クロヒョウは身体を貫通されているにもかかわらずクリムゾンセラフを押し倒した。
――ガァウッ! グアォッ!
黒い煙を噴きながらなんとか喉笛を食い破ってやろうと襲いかかってくる。
そうこうしているうちにも新手が続々と集まってきた。
「このっ」
並みの騎士なら絶体絶命の危機。
だが勇輝とクリムゾンセラフは世界一の撃破数をほこる最強のコンビだった。
背中から魔力を送って地面を急激に隆起させる。
クロヒョウとクリムゾンセラフは強制的に立ち上がる形になった。
押し倒していた形を維持できなくなったクロヒョウは腕力で押しのけられ、距離がうまれる。
その隙にクリムゾンセラフは宙へ飛びあがった。
「くらえバケモノども!」
勇輝がさけんだ瞬間、盛り上がっていた地面が突然爆発した。
魔王戦役の夜にハエの大群を撃破した技である。
至近距離にいたクロヒョウは即死。ほかの悪魔たちにもそこそこのダメージをあたえる。
「フウッ」
だんだん呼吸が苦しそうになってくる勇輝。
だが休むひまはあたえてくれない。
空を飛ぶコウモリたちが襲いかかってきた。
「良いコンビネーションじゃねえか!」
純白の翼を羽ばたかせて後退するクリムゾンセラフ。
さがる敵を追いかけるコウモリの群れ。
さらにクリムゾンセラフは翼を羽ばたかせ、夜空にもまぶしい純白の羽根が宙に舞う。
いくつもの羽根が舞うなかに、コウモリたちは入った。
「羽根爆弾ッ!」
ッゴゴゴゴオオオオオンン!!
急に昼間になったかというほどの閃光が闇夜に炸裂した。
宙を舞っていた羽根の一枚一枚がすべて爆弾。
クリムゾンセラフの切り札である。
「どうだっ!」
次々と悪魔を撃破していく勇輝だったが、自分を睨む光る目がまだまだいることを確認してウンザリした。
『ユウキ様、馬車との距離がむしろ開いています』
「わかってるよ!」
きりがない。
立ちはだかる悪魔の布陣がぶ厚くて突破は困難だ。
「どうしたらいいんだ……!」
まとまらない思案をめぐらせていると、突然機体がダメージを負った。
予想外の痛みに驚愕する勇輝。
「なに!?」
――ホーッ! ホーッ!
まったく接近する気配を感じなかった。
いつの間にか巨大なフクロウが後ろから近づいていたのだ。
鉤爪が胴体に食い込み、鋭いくちばしが次々と兜に突き刺さってくる。
「ぐあっ! 痛てえぞこのヤロウ!」
勇輝はかつて地球でみた動物番組の実験を思いだした。
フクロウは音もなく闇夜を飛ぶ。
タカやワシなどが鳴らすバサバサ音を、フクロウは鳴らさずに飛べるのだ。
フクロウもれっきとした猛禽類。闇の狩人なのである。
「色々いるなホントにッ!」
クリムゾンセラフの機体そのものに魔力を流し、全身をハリネズミのようなトゲトゲだらけに変化させた。
――ホーッ!
全身を串刺しにされてフクロウが離れる。
「スキありーっ!」
勇輝は光り輝く拳でフクロウの顔面を強打し、消滅させた。
「はあ、はあ、はあ……!」
さすがにきびしくなってきた
数が多いのも問題だが、どういう敵がどういう攻撃をしてくるのか、それが不明なのがつらい。
その時だった。
『ユウキーっ!』
男の子の声で通信がはいった。
「ラース!? 間に合ったのか!」
傭兵少年ラースだった。
『へへっ、俺だけじゃないぜ』
『おねえちゃんダイジョウブ!?』
こっちは女の子の声。
聖都の方角をみれば、奇妙なシルエットが夜空に浮かんでいた。
《鉄騎士》を《ネクサスⅢ》が空輸している。
「ルカも来てくれたのか!」
『へへっ、ダメもとで頼んでみたんだよ。
空飛んだほうがはやいだろ?』
高所恐怖症のくせに。
これも愛ゆえか。
『おいおいもう一人いるぞ、援護する!』
二機を追い抜いて高速接近してくる機体が一つ。
銀色の鳥人間《神鳥》。
「兄貴!」
《神鳥》。
《ネクサスⅢ》。
《鉄騎士》。
しんどい局面で味方が来てくれた。





