戦いはクールにやるものだ
月明かりの中、騎馬で駆けつけた男が一人。
第五騎士団長マキシミリアン・ロ・ファルコである。
「フォルトゥナート!」
マキシミリアンは人混みの中にむかってさけんだ。
今は馬を繋ぐのも面倒といった感じで、いつになく興奮している。
五大騎士団の中でもっとも沈着冷静といわれる彼ですら、今日の大事件には冷静でいられなかった。
「賊を討ち果たしたそうだな!」
「よう、早いなマッキー」
警官隊による現場検証の中心に彼はいた。
なにせ殺したのが彼、フォルトゥナート・アレッシィなのだから。
討ち果たした賊の人数は四人。
全員ほぼ一撃で殺している。
さすがの実力だ。
「見事といいたいが、全員殺してしまったのか」
「ああん?」
「貴様ほどの実力があれば一人くらい生け捕りにできたのでは」
「おいおい」
フォルトゥナートは肩をすくめて同僚を非難した。
「四対一だぞ? 手を抜いたりしたらこっちがやられちまう」
包囲されて同時に刺されたとしたら、どんな勇者・剣豪でも無傷ではすまない。
そして暗殺者たちの能力が強い《魔毒》であることはヴァレリアが現在進行形で証明中であった。
「む、それもそうか」
結果としてフォルトゥナートはカスリ傷ひとつない。
だからつい「どうせなら……」と欲をかきたくなってしまうが、ムシのいい願いだったようだ。
「それにしても、なんというひどい夜だ」
「ああ、まったくだな」
二人の騎士団長のまわりで警官隊がいそがしく働いている。
さらにその周囲を民衆が不安そうに見ていた。
歴史にのこる栄光の日となるはずだったのに。
この邪教徒たちのせいで。
マキシミリアンはもはや動かぬ死骸となった四人を憎しみの目で睨んだ。
一方、聖都の北部に飛び出した勇輝とクリムゾンセラフである。
逃走したという馬車を追って、北へ北へとつづく道路にそって飛行していた。
しかし月や星の光ではまったく明るさが足りず、イライラしながらの捜索だ。
『ユウキ様、なぜ照明器具を作らないのですか?』
セラに問われて、勇輝はウーンと難しい顔になった。
勇輝の魔法ならたしかに照明くらい簡単に作れる。
クリムゾンセラフの全身をたとえばスタジアムの超強力なライトに変えるとか、そういうことをすれば明るさを得ることはできるのだが。
「こんな暗い場所で光ったら、逃げているやつらに見つかっちまうだろ。
《見つけやすい》のと《見つけられにくい》の、どっちが作戦的に有効なんだか分からねえんだ」
『そうでしたか』
セラにも理解してもらえたようだ。
一度敵に発見されてしまったらもう二度と元の状態にはもどれない。
だからやるべきか、やらざるべきか、決断できないのだ。
「くっそぉ、こんな時にナイトスコープでもあったらなあ」
イライラしながら愚痴る。
そのひと言をセラはスルーしなかった。
『それはどういう物でしょうか?』
「ん?」
『それは、作れないものなのですか?』
「…………あっ」
勇輝は自分のアホさ加減に顔をおおった。
「アホだ俺、イライラしすぎてちっとも冷静じゃなかった」
さらわれた皇女殿下。
倒れたヴァレリア。
はじめての土地。
たった一人の夜戦。
いくつもの精神負荷が重なりあって、勇輝の心は知らないうちに追いつめられていたらしい。
「セラ、ナイトスコープっていうのは、こういう物だ」
勇輝はクリムゾンセラフの《眼》に新しい機能を追加した。
ナイトビジョンデバイス、日本語だと暗視装置。
航空機用だとANVISなどと呼ぶそうだが、そんなに立派なものでなくてもいい。
要はすくない光源でも物が見えること、それが重要。
クリムゾンセラフの視ている映像が緑一色にかわった。
緑が一番知覚しやすい色なのである。
『これは素晴らしく便利です。視覚能力が飛躍的に向上しました』
緑色一色だけの視界なので万全とはいえない。
だがそれでも大違いだった。
不安定でおぼろげだがそれでも大地に生えた樹と、そのあいだにある道と、その道を行く馬車が見えた。
『発見しました!』
「ああ! もう逃がしゃしねえ!」
クリムゾンセラフが空からせまる。





