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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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渋いこだわり

 結論からいうと、第三騎士団長リカルド・マーディアーは勇輝の言うことにいっさい耳をかさなかった。


 この世界に来たその日からの付き合いだ。

 戦友としておたがい親近感はあるはずなのだが、変なところで、しかも悪い意味で頑固なクソオヤジだった。

 リカルド以下、第三騎士団の面々は機兵にも軍服にもいっさい飾りつけをしておらず、普段のままだったのだ。

 過酷な実戦および訓練で装甲は傷だらけのボロボロ。

 泥がついていたり妙なペイントが落書きしてある個体まであった。


「男ってえのは仕事で格好がつきゃあそれでいいんだよ!」

「今日も仕事でしょうが!」

「こんなのぁただのお遊びだよ!」


 いちおう最低限これが団長機だとわかるように、リカルドの《ケンタウロス》騎兵だけは赤いマントを身につけている。

 だがひどく色あせているうえ、ハデに引き裂かれてボロボロだった。

 たぶん遊撃隊長だったころ実戦で傷ついたやつだろう。


「せめてそのマントだけでも」


 そういって手をのばした勇輝であったが、リカルドは顔を真っ赤にして怒りだした。


「バカヤロウそれが一番大切なんだろうが!!」

「ハア!?」

「このシブさがいいんだよ!」


 ……どうも彼なりのセンスで身だしなみを整えたつもりらしい。


「せっかくのハレの日なんですから、ピカピカにしといたほうが良いでしょうが」


 勇輝がやれば無料タダでしかも一瞬だ。

 しかしリカルドはうるさそうにシッシッと片手をふった。


「お前もう邪魔だからよそへ行ってろ。

 そろそろ行くぞテメエら!」

『オオーッ!』


 ズタボロマントをひるがえしながら先頭をゆく団長機。

 つづく機兵たちはチラチラと勇輝の姿を見ながら目の前をズンズン通りすぎていく。


「……フンッ」


 善意をこう否定されて勇輝は面白くない。

 クリムゾンセラフを召喚して空中から第三騎士団の様子をうかがった。






 

 ザワッ……。



 第三騎士団の姿を見た民衆たちは、これまでに登場してきた騎士団たちとの落差にざわめいた。

 帝国皇帝の血を引く美形中年の騎士団総長。

 貴族出身者だけで編成された美々しい第一騎士団。

 いかにも新しい時代の予感を感じさせる若い女騎士団長と、その側近である女性部隊が先頭をゆく第二騎士団。


 それら色とりどりの華やかな軍団のあとにあらわれたのは、傷だらけの守護機兵の群れ。

 装飾は団長機が身につけているボロボロの赤いマントのみ。

 まるで今まさに戦闘から帰ってきたかのような、殺伐さつばつとした集団だった。


 ザワザワザワ……。


 民衆たちは目の前を通り過ぎていく殺伐とした戦闘集団を見上げながらまゆをひそめていた。


「あっちゃあ……」


 勇輝は手で顔をおおった。

 案の定ドン引きされている。


『ユウキ様、地上でささやかれている声を私はひろっていますが、ごらんになりますか?」


 人工知能セラにそう提案されて、勇輝は聞いてみることにした。


「ああ、お願いしようかな」

『分かりました』


 セラが文字起こしした文章が水晶スクリーンに表示される。

 ちょっとしたSNSの気分。


《なんか第三はイマイチだねえ》

《ちょっと怖くない? 手をふったりとかもしないし》

《人前に出てくる恰好かよ、ちゃんと手入れしてんのか?》

《まあヴァレリア派は節約節約って毎日うるさく言われてるらしいしねえ》


「セラ、もういい」

『そうですか』


 見てるこっちが辛くなってきた。

 いわゆる共感性きょうかんせい羞恥しゅうちというやつ。

 人のことなのにあたかも自分のことのように恥ずかしくなってしまう感覚だ。


 大勢の民衆が第三騎士団を見つめているが、誉めたたえるというよりあざ笑うような視線が多いような気がする。

 自らをわらう人々のただ中にほうり込まれて、第三騎士団の面々は背中を丸めてすっかり萎縮いしゅくしてしまった。

 そんな中でもリカルド機は堂々と胸をはり、先頭を歩いている。

 人々の嘲笑ちょうしょうなぞ見えぬ、聞こえぬと言わんばかりに。


「リカルドさん、なんなんだよこれは」


 戦友とも師匠ともいえる人物が笑いものになっている姿を見て、勇輝は胸が苦しい。

 しかしそんな時に、大きな声で人々の態度を批判する人物があらわれた。


「まったくどいつもこいつもわかっておらんな!

 あれこそが騎士たるもののあるべき姿じゃというのに!」


「んん?」


 勇輝はスクリーンを一部拡大させて声の主をさがす。

 わめいていたのはいかにも気の強そうな、うるさ型の老人だった。

 顔半分を埋めつくす白いヒゲ。ギョロッとした両眼。胸をはってふんぞり返った態度。

 誰だかは知らぬがきっと引退した元・聖騎士だろう。

 

 白ヒゲの老人は手に持っていた杖でリカルド機を指ししめした。


「なぜ機体が傷を負っているか分らんのか、勇敢ゆうかんに戦ったからに決まっておろう!

 あの傷ついた赤いマントを無様ぶざまと笑うやつは物を知らぬおろかものじゃ!

 ああいうのは《ほまきず》といって名誉のあかしなのじゃぞ!」


 老人の講釈こうしゃくをきいて周囲の人間たちはほおー、とかへえー、とか感心の声を出す。


「この機会にちゃんと見ておけよ若造ども、聖女様を支えて東奔西走とうほんせいそう、つねに実戦に身を置く実力者じゃぞ!」


 感心のため息は歓声に変わった。

 ワッと急にさわがしくなり、前後左右から拍手がわきおこった。


 

 ワアアアアアッ!

 パチパチパチパチ!



 拍手はくしゅ喝采かっさいにつつまれたリカルドは、機兵の頭を老人にむかって一度下げさせる。

 老人もそれに応じて満足そうにうなずいた。

 

「な、なんだよこれは」


 勇輝は上空から一連の流れを見つづけて、なんだかモヤモヤした気分になった。

 あのヒゲ老人の解説を聞くまで勇輝もただ単にみっともない姿だと思っていたのに。

 それを否定されて笑っていた連中はコロリと態度を変え、勇輝は心の方向性を見失った。

 けっきょく勇輝も笑っていた連中とおなじ、《物を知らぬ若造ども》の一人だったのである。

 

 リカルドの演出意図はミーハーな民衆を相手にしたものではなかった。

 玄人好みのベテランたちを意識したものだったのである。

 少々分かりにくいので多数派に受けるものではない。

 だが本人が言ったように《渋い》ものが好きな大人には愛される生き様を表現したのだった。

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