変わる者、変われぬ者
さらに数日の時がながれた。
パレードの日が近づくとともに、武装商隊の市場が終了する日がやって来た。
もうすでに販売は終了し屋台やテントを解体しているところである。
連日ごったがえしていた客もすでになく、はやくも祭りのあとの静けさが匂いはじめていた。
「なんかあっという間だったなあ」
「まっ、俺たちはどこへ行ってもこういうもんなんだよ」
勇輝とラースが向かい合って会話している。
勇輝の腰にルカがしがみついていた。
せっかく出会って友達になれたのにすぐ別れなければならない、その現実が悲しくて受け入れがたい様子だ。
「帰るのはパレードのあとか」
「ああせっかくだから見物していくぜ。お前らも参加するんだっけ?」
「いや俺らは頼まれてないから」
ルカの頭をワシワシなでながら勇輝はそう言う。
ヴァレリアに出ろと言われれば出るつもりだったが、とうとう今日まで言われなかった。
あのお人は勇輝が明確な軍属になることをあえて避けている。
組織の中にガッチリ組みこむより放し飼いにしておいたほうが得だと考えているようだ。
「当日は皇女殿下の命令でご令嬢の皆様方といっしょに見ることになってるよ」
勇輝のもの言いにラースはプッとふき出した。
「お前はえらいんだかえらくないんだか分からねえ奴だなあ」
「じつは俺にもよくわからん」
笑いあう二人。
「つぎにあう時は」
「ん?」
ラースはちょっと真面目な表情になった。
「つぎにあう時は、もっと強くなって来るからな」
「んん?」
ラースの熱い視線の意味は、勇輝には伝わらなかった。
聖都の地下には下水道が張りめぐらされている。
地上の清潔さをたもつために必要な設備であるが、反面闇にひそむ犯罪者が悪用するのに便利な空間にもなっていた。
今まさに下水道の一角で犯罪計画が協議されている。
「これは絶好のチャンスだ。我らの正義と忠誠心を神にしめすのは今回をおいて他にない」
リーダーらしき人物がおさえた声色で、しかし情熱的に語っている。
「騎士団のパレードに民衆の視線は釘付けになる。
警官隊の警備も民衆のコントロールで手一杯になり我々の妨害はできまい。
騎士たちが自由に行動できないのは言うまでもないことだ」
リーダーの提案、というか演説に部下たちは何度もうなずいている。
「覚悟を決めろ同士たちよ、今こそ正義の鉄槌をくだす時だ!」
リーダーは懐から大きめな十字架をとりだした。
部下たちも同じく十字架をとりだす。
彼らは一斉に十字架の一番長い部分を引き抜いた。
引き抜いた鞘の内側に隠れていたのは尖端が鋭くとがった凶器《錐刀》。
この十字架の《錐刀》を使うテロ集団がかつて聖都に大惨事を発生させたことがあった。
首謀者の名はベアータ。起こした事件の名は《魔王戦役》。
聖女エウフェーミアが聖都に相澤勇輝を送り込まなければ破滅的なダメージを与えていたであろう大事件だ。
とっくの昔に全滅したと思われていた彼らだが、こうしてまだ地下世界でしぶとく生存していたのである。
「やろう!」「やろう!」
部下たちからも熱狂の声が上がる。
狂信的なテロ組織の残党どもは円陣を組み、自分たちの象徴である《錐刀》を重ね合わせて宣言した。
「パレードの日、我らの手で教皇をこの世から抹殺する!」





