鋼鉄のフェアリーテイマー
大きなバックパックを背負った兵卒たちがベラン先輩専用の機兵だった。
しかしこれでは歩兵を複数動かせるというだけ。その他の騎士と大きな違いはない。
肝心なのは背中の箱に何が入っているかだ。
「出なさい、妖精!」
主の命令をうけて箱の封印がとかれる。
中から薄緑色をした物体が複数飛び出してきた。
それは人間と同じかやや小さいくらいの小型機。
昆虫型の一対の羽根。簡単なものくらいは持ち運べそうな片手だけの鉤爪。
小さすぎてとても人は乗れない、まさに遠隔操縦ならではの兵器だった。
「稲妻!」
ズババババッ!
妖精と呼ばれた小さな飛行物体から意外に強烈な雷撃がはなたれた。
「炎!」
ゴオオッ!
次は炎がはなたれた。
「氷塊!」
ドスッ!
鋭くとがった氷の塊も出てくる。
空中浮遊する魔導砲台といったところか。
この妖精は自由に飛びまわるので木や岩といった遮蔽物が意味をなさない。
いわゆる属性も豊富で、使い勝手の良さそうな兵器だった。
「ほええー」
「どうです?」
「うん、すごくいい!」
「フヒッ、フヒヒヒ……」
手ばなしでほめられてベラン先輩は気持ち悪く笑った。
「これは俺も出来るようになりたいなあ」
勇輝のクリムゾンセラフにも《羽根爆弾》という遠隔攻撃がある。
ただこれは羽根を爆弾にかえて空中にばらまくというもので、コントロールがきかない。
確実に命中させるためには大量にばらまく必要があり、結果として無差別爆撃しかできずエネルギーのムダもかなり多い。
ベラン先輩の繊細な技術力はぜひ学びたいものだった。
「今のどうやってマネしたらいいですか?」
「どうってぇ、あたしは動けーって念じるだけなんで」
勇輝はむぅ、とうなった。
魔力の感覚は千差万別。
猿マネするのも楽じゃない。
「動けー、か」
勇輝は地面に魔力を流し、クリムゾンセラフの羽根を一つだけ作った。
「動け! 動け! ウオオオオ!」
地面に放置された羽根にむけて、頭の血管がブチ切れそうなほど念じる。
だがピクリとも動かなかった。
「ハア、ハア……、動かないっす先輩」
「あたしの方からしたらフツーの地面を羽根にかえる方がずっとすごいんですけどね」
くり返しになるが、千差万別なのだ。
「まあ聖女様は天才だから、そのうちできると思いますよ」
「軽くいってくれるなあ」
まあ気長にやっていくしかないようだ。
本日この東部大草原には第三騎士団、遊撃隊、そして第二騎士団の一部、さらにジェルマーニアの傭兵に紅瞳の聖女と、じつに様々な人材が集まっている。
多士済々(たしせいせい)というやつだ。
『ウオオオオッ!』
なにごとか歓声が上がった。
誰かがすごいことをやったらしい。





