俺またなにか作っちゃいました?
翌日。
うわさ好きの女生徒たちは、さっそく妙なストーリーを拡散していた。
「昨日の夜、皇子と聖女が腕をくんで一緒に歩いているのを見た!」
「生まれてはじめて着るドレスに聖女は顔を赤らめていた!」
「そのまま二人は夜の街に消えた!」
「皇子と騎士団長、聖女のハートを射止めるのはどちらなのか!」
ずいぶん具体的なストーリーだが、そのわりに目撃者は不明。
昨日《白い城にいた人間なら、二人がたいして会話もしていないことを知っている。しかしそういう面白味にかける証言は無視。
勇輝本人が「昨日は家で蕎麦つくって家族で食べた」と証言しても無視。
彼女たちにとって《聖女》という単語はたんなるオモチャであり、現実とフィクションの境界線に存在する《妄想をはかどらせるための材料》にすぎない。
「アホくさ」
勇輝は相手にするのをやめた。
彼女たちに何を言っても、かってに言葉の裏を読んで心の中を捏造する。
真実ゼロの妄想話をあたかも真実であるかのように言いふらし、それで迷惑する人が現れても責任をとらない。
やっかいな趣味人たちである。
好奇の視線から逃げるようにして《白い城をおとずれた。
だがあいにく主人であるマリアテレーズ殿下はまだ帰宅しておらず、護衛兼メイドのカミラが仕事をしているだけだった。
彼女は勇輝の姿を見つけると、うやうやしく一礼する。
「本日はまだどなたもいらっしゃっておりません」
「そうっすか。そういや前に渡した脇差はどうですか?
崩れたりしてません?」
カミラはニコっと微笑む。
「まったく異常ありません。家宝として末永く大切にいたします」
「家宝ってそんな大げさな」
勇輝は笑い飛ばそうとしたが、カミラはゆっっくりと首を横にふった。
「聖女さまはまだご自身の価値を正確に理解していらっしゃらないのです」
ちなみにカミラに渡した脇差というのはいわゆる日本刀の短いものである。
切れ味鋭く、美術品としての価値も高い。
なにより《聖女が神秘の力で壁石から作った》《その光景を皇女殿下もはっきり見ている》という二つの逸話がついている点が大きい。
将来いったいいくらの値段がつけられるのか、想像もできないお宝だった。
「ふーんまあ喜んでくれてるならそれでいいです。それじゃ」
皇女殿下がいないのではここにいても意味はない。
とっとと外へ出ようとするが、ふと何かを思いついてクルリと向きなおった。
「そういえば昨日の皇子様ってどこに泊まっているか知ってます?」
「いいえわたくしは存じません。
ただ可能性としては高級ホテルか、あるいは第一騎士団長フリードリヒ・フォン・ギュンダーローデ様のお屋敷ではないかと愚考いたします」
「第一騎士団長のところ?」
「はい、ギュンダーローデ様は皇族のご出身なのです」
「へー」
カミラは勇輝の顔色をうかがうような視線をよこした。
「お気になりますので?」
勇輝はそっけなく首を横にふった。
「いや全然、むしろ近づかないようにしようかなって。
この学校の連中ゴシップが好きすぎてイヤになっちゃうよ」
「さようでございましたか」
彼女もジェルマーニアの人間だ。
皇子が突然やってくるという状況に色々と思うところがあるはずだが、クール系お姉さん的な雰囲気をくずすことなくいつも通りにふるまっている。
どんなことを思っているかはわからなかった。





