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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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皇子と蕎麦

 楽しい時間はあっというまに過ぎ、解散の流れになった。


「お兄様、また来てくださいますわよね?」

「ああもちろんだよ」


 兄妹はもう一度抱きしめあい、そして妹を残し《白い城ヴァイス・シュロス》をあとにする。

 正門までの帰り道、令嬢たちはパウル皇子を完全に包囲して質問ぜめにしていた。

 彼女たちの包囲網の外を勇輝は歩く。

 なんとなく令嬢たちからブロックされているような疎外感をおぼえた。


 ――お前は邪魔だからあっち行け!


 そんな空気を感じる。

 別にそれならそれでいいのだけれど、確か彼女たちの中にはすでに婚約者がいる者も混ざっているはず。

 その辺はどうなのだろう。まあ関係のないことか。


 皆で歩いているうちに正門へつく。

 残念ながら誰かが特別お目にかなうということもなく、お別れの時がきた。


 皇子にはマリアテレーズ殿下が用意した高級レンタル馬車が待っていた。

 馬車の前に黒髪の若い執事が待っている。

 細面ほそおもての美男子であった。

 

 令嬢たちの中から感嘆かんたんのため息が聞こえてくる。

 たしかにちょっと珍しいほどの美男だ。

 青い瞳が宝石のよう。


「待たせて悪かったねミーシャ」

「とんでもございません」


 ミーシャと呼ばれた彼が胸に手をあて一礼した瞬間、髪の毛がわずかにゆれ、一部分が金髪のように見えた。


(ん?)


 気のせいだっただろうか。

 それとも髪の色を染めているのか。

 しょせんは他人のことなので、勇輝はだまっていた。


 あとは何もなくあっさり解散。

 勇輝もクリムゾンセラフを呼びだして家へ帰った。


 さあ蕎麦そばだ。蕎麦を作るのだ。

 普段は入ることのない厨房ちゅうぼうにお邪魔して、ベルモンド家専属の料理人に事情を説明する。

 日本蕎麦がいかなる食いものかを力説していくなか……。


 この世界には醤油しょうゆが無いということを、勇輝はついに思い出したのだった。


 日本料理を作るうえで醤油がないとなると、作れるものは大幅にへる。

 かといって醤油の作り方なんてメチャクチャ大ざっぱにしか記憶していないし、一日二日で作れるようなものではない。

 今回はもうどうしようもないということで、食べ方は料理人さんにお願いするしかなかった。


 で、本命の蕎麦づくりであるが、これも勇輝はやったことがない。

 作り方を要約すると粉を水でこねてのばして切ってゆでる。

 つまりはパスタ作りなわけで、これもプロである料理人さんにアドバイスをもらいつつ悪戦苦闘してどうにかめんの形にすることができた。

 ためしにすこしでてみると、上出来ではないがまあ蕎麦といっていい味がする。なつかしさにちょっと涙がでた。


 さあその日の夕食。

 勇輝が作った食べ物が出るということでベルモンド家の人々は戦々せんせん恐々きょうきょう

 勇輝本人にもどんな味付けがなされているか不明といった状況で、その料理は食卓に登場した。


《牛テールのスープ煮~聖女風パスタを添えて~》


 深めのスープ皿に長時間煮込んだやわらかい牛テールが置かれている。

 牛テールの周辺を手間ひまかけたコンソメスープで満たし、上には香草がちりばめられている。

 そして牛テールのとなりには上品に巻かれた日本蕎麦が。


 用意されたフォークで食べてみると……うん美味い。

 美味いが、どう考えてもこれは和食じゃない。


 複雑な表情を浮かべる勇輝にたいし、他の三人はホッと安心した様子で初めての食材を楽しんでいる。

 勇輝の作るものだから巨大化したり変身したり爆発したりする物を想像していたらしい。


 確かに美味い。

 当日いきなり未知の食べ物を押しつけられて、ここまで完成度の高いものを作ってみせた技術と知識量はすばらしいものだ。

 たぶん本来は牛テール煮込みやスープは別の使いかたをする予定だったのだろう。

 かなり無茶な要求をしたはずなのにこの見事なアレンジ力。

 たいしたものだ。

 

 ……たいしたものだが、コレジャナイ感はハンパない。


 この微妙にずれた感じ。

 思うようにいかない未熟さ。

 これはまさに今の自分を表現しているようだなあと、そう思う勇輝であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 出汁に関しては昆布出汁とか魚の燻製とかやりようがあっても醤油はねぇ……
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