兄妹の再会
「お兄様!」
「マリアテレーズ、ちょっと離れていた間に一段と美しくなったね」
抱き合う兄と妹。
周囲に花が咲き乱れていそうなイメージの、感動の再会だ。
聖エウフェーミア女学園は突然来訪したスーパーセレブの存在に、天地がひっくり返ったかのような大騒ぎとなった。
「一体どうなさいましたの、先にお伝えいただけましたら色々と準備もできましたのに」
「すまないね。今回はあまりに急だったのと、いちおうお忍びの視察なのでね」
兄・パウルはいたずらっ子のような表情でウインクした。
それを見た周囲の令嬢たちは顔を真っ赤にそめてウットリ見つめている。
「皇子の魅了攻撃、効果は絶大だ。
なんちって」
ただ一人、勇輝だけは平静をたもち壁に寄りかかっている。
皇帝の一族とはいえ特別に顔が三つあるわけでも腕が六本あるわけでもなく、普通の人間の姿をしている。
しかしながら何となく高貴なオーラ的な空気感を感じるのは、やはり生まれた瞬間から《いとやんごとなき》身分の人間として生きる宿命を背負わされてきたからだろうか。
「ところでお兄様、なぜ道案内がユウキでしたの?」
「ああそれはね、運命的な出会いによるものだよ」
ザワッ!
「ん?」
周囲の令嬢たちの視線が矢のようなはげしさで勇輝に突き刺さる。
――またこいつばっかり……!!
恨み、妬み、怒り、その他もろもろがこもった視線が突き刺さる。
そろそろ彼女たちの感情だけで悪魔が誕生しそうだ。
「……というのは冗談で、市場で偶然出会っただけだよ。
僕は武装商隊の馬車で昨日来たばかりでね。
今朝ちょうど買い物にきていた彼女と出会ったんだ」
「まあそうでしたの」
その言葉を聞いて勇輝は殺意の包囲網から解放された。
どうもこの皇子はたちの悪いジョークがお好きのようだ。
令嬢たちの興味が勇輝から離れたのと入れ違いに、緑髪の女騎士ダリア・バルバーリが近づいてくる。
「ユウキ様、今日はなんだか不思議なにおいの香水をつけていますね」
「いや、香水じゃなくって、このにおい」
勇輝は市場で買った皮袋をダリアの前に持ち上げてみせた。
「蕎麦粉」
「ソバコ……?」
「うん、こいつがあれば俺の生まれ故郷の料理が作れるかもしれないんだ」
「ああニホンとかいう異世界ですか」
ダリアにとっては地球や日本のほうが異世界である。
地球が文字通り丸い大地なのを見たら、平面世界に生きる彼女たちはどう思うのだろう。
まあそれはさておき。
スーパーセレブ兄妹を中心として貴族たちは話題に華を咲かせていた。
「お兄様、聖都へはいつ頃まで居られますの?」
「帰りの商隊がでるまでだから、まあ二週間くらいかな」
「まあ! それならわたくし聖都を案内してさしあげますわ!」
マリアテレーズ殿下は久しぶりの再会を心から喜んでいる様子だった。





