遭遇、お忍びお兄さん
「離れろってんだ!
ガキのオモチャじゃねえんだぞ!」
一方的に責められて勇輝はムッとした。
「手入れもしてねーくせにえらそうなこと言ってんじゃねえよ」
「なにッ」
「全身ボロボロじゃねーか、こんなんじゃ一撃で壊れちまう」
「ハアッ!?」
少年はズカズカと足早に歩み寄り、勇輝の肩をつかんだ。
「だったらやってみろよ!
素人のくせに!」
「素人はお前のほうだろ」
正面からにらみ合う両者。
身長、体格は同じくらいだ。
「傷んだ機兵で戦場に出るとか、甘えているとしか俺には思えんがね」
「アアッ!?」
「でかい声を出したって機兵が直るわけじゃねえ。
相棒とかいうんならもっと大事にしろ」
勇輝は指輪を空に向けた。
「見せてやるよ、俺の相棒を。
出てこいセラ!」
『はい』
右手の指輪から閃光があふれ出す。
閃光の中から紅の天使がふわりと姿をあらわした。
「なっ!?」
おどろく少年を無視して、勇輝は非情な命令をくだした。
「セラ、そいつの大楯をぶった切ってやれ!
ほっといたらこいつら悪魔のエサになっちまう!」
『了解しました』
クリムゾンセラフは腰の日本刀をスラリと抜いた。
陽光に輝く白刃を大上段にかまえる。
「ま、まて、やめろ」
ヤバそうな空気をさっして少年がさけぶ。
『ハアーッ!』
はたして言う必要があるのやら、妙に格好をつけたかけ声を出しながらセラは斬撃を見舞った。
ギイィィン!
金属と金属がぶつかり合う不快音が響きわたった。
ゴドン!
次ににぶい音がして、大楯の半分が地面に落ちた。
セラは無言で刀を鞘に納める。
「わあああ! なにしやがんだあああ!」
落ちた破片にすがる少年。
「やってみろっつったのはお前だろうがよ」
勇輝はクリムゾンセラフをひざまずかせ、手のひらの上に乗る。
もう一方の手で落ちた破片を拾わせた。
「武器が悪い、盾が悪い、そんなこと悪魔が気にしてくれるかよ。
人間なんてちょっとしたことで死んじまうんだぞ」
クリムゾンセラフが断面をくっつける。
そこに勇輝が触れると、あっという間に元通りとなった。
ここで終ったら意味が無いので、さらに魔力を送って小さな欠けやヒビを修復する。
少年の大楯は無傷の状態になった。
「ウソだろ! なにやったんだお前!」
「これが俺の魔法だよ」
さらに勇輝は自分の身体をセラに運ばせて、重装騎兵の装甲を修復していく。
魔法に頼らない方法だと部品取り寄せ・解体・溶接など大変な手間のかかる作業だが、勇輝ならば一か所につき五秒でたりる。
ケバケバしい塗装で誤魔化されていた機体のダメージが次々と修復されていくのを目にして、いつしか少年は文句を言えなくなった。
そんな少年のもとに、二十歳前後とおぼしき男性が近づいてきた。
首のあたりまでのばした金髪。
さりげなく上等な衣服を着こなし、身分ありげな風体。
「なるほど聞きしにまさる力だね」
「デンカ! あいつ知ってるんですか!」
「ああ、妹からの手紙でね」
地上でそんな会話がはじまったので、勇輝は視線を機兵からはなした。
「デンカ……?」
たぶん《殿下》。
見れば金持ちそうな若い色男だ。
どこかの国の王族かもしれない。
いつまでも上から見下ろしていると問題になるかもしれないので、勇輝は地上に降りた。
男は勇輝の瞳をじっと見て確認すると、上品に一礼した。
「はじめまして聖女様。
僕はパウル・フォン・ニュスライン=フォルハルト。
以前は妹の危機を救っていただいたそうで」
「妹さん、ですか?」
一瞬だれの事だか分からなかった。
人助けをした回数が多すぎてちょっと思いつかない。
パウルと名乗った人物は笑みをくずさず補足した。
「ええ、妹の名はマリアテレーズですよ。
いまは聖エウフェーミア女学園というところで寮生活を送っているはずです」
さすがにそこまでの大物とは思いもよらず、勇輝は硬直してしまった。
「皇女殿下のお兄さん!?」
つまりいつか皇帝になるかもしれない人物!
そんな人物がどうしてこんな場所に!?





