女性だけの騎士隊
足元を流れる紫色の煙。
部屋の中は薄暗く、部屋の一番奥に黒いローブを着たベラン先輩が座っている。
目をこらしてよく見ると左右に似たような黒ローブ姿が立ち並んでいた。
「…………」
パタン。
関わっちゃいけない集団に出会ってしまったような気がして、勇輝はドアをそっと閉じた。
同時に魔法でドアを開かないように加工する。
「え、ちょっと、入ってきていいですよー?」
中からベラン先輩の間の抜けた声がする。
ガチャ、ガチャガチャ!
ドアノブをまわす音。
「ちょっと! ドア開かないんだけど!」
別の女の声がする。
エーッという悲鳴とともに、室内は騒然となった。
「だからやめようって言ったじゃん!
聖女様ドン引きだったじゃん!」
「ちょ……ゲホッ、煙、ひど……ゲホッ」
「窓、窓!」
「ギャー! ロウソクの火がカーテンに!」
何かえらい騒ぎになってきた。
ドア固めただけなのに。
「ねえちょっと、そろそろ助けてあげて」
ジェニーさんに頼まれて、勇輝はドアを元に戻した。
開けてみると、中は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
あふれだす紫色の不気味な煙。
燃え盛る黒いカーテン。
オロオロする黒いローブの女たち。
「あららら」
勇輝は一瞬でカーテンを砂に変え、それ以上の燃焼をふせいだ。
周辺も黒くコゲてはいるがまだ発火にはいたっていない。
「あっぶねえなあ」
言いながら窓を開けた。澄んだ空気が中に入ってくる。
「なにやってんのまったく」
「いやーお恥ずかしい」
ベラン先輩は左右の頬に手をあててブツブツしゃべっている。
「ところでカーテンなくなっちゃったんですけど、今夜からどうすれば」
「ちゃんと直すよ」
勇輝が砂の山を踏むと、砂は新品の黒いカーテンになった。
「こっちも」
壁に触れると黒コゲになっていた部分がきれいになった。
「うわー、なんかもううわーって感じ。
もしかして聖女の力って何でも出来ちゃう感じ?」
「何でもじゃないけど、まあ俺ができるって思う物はなんでも作れるなあ」
たとえばたった今、火事がおこっているのに勇輝は消火器を作らなかった。
消火器の中身がどういう物質なのか知らなかったので、瞬間的に《わからん、やめておこう》と思ったからだ。
白い粉が出るのだと思ったが、アレの正体ってなんだ?
正体不明のものを作ろうとしてもイメージがあやふやになってしまうので、ちゃんとした物にはならないと確信できてしまう。
できる・できないの基準はあいまいだが、なんでも作れるわけではないのだ。
「そうなんだー。
で、今日きたのはさっそく北へ行く時がきたってこと?」
「いやそれがなんというか、実際行ってみるにはちょっと弱いネタを仕入れて。
それで相談してみようかと」
「フーン」
かつて勇輝と壮絶な殺し合いをした黒き魔女ベアータ。
彼女と同じ技を使う不審者がいた。
そいつはフォルトゥナート団長が北へ向かう旅の途中で出会った。
たったこれだけの理由で旅立つというのはさすがにおかしい気がする。
「んー、行きたいと思えないなら、まだ早いのかもね」
「それは占い?」
「ただのカンです」
「あ、そう」
勇輝はガクッと肩をおとした。
「あなたは北へ行く運命なんで、フツーに行きたくなるはず。
これからもっと理由のほうからやって来るんじゃない? たぶん」
「たぶんね……」
あまり来た意味はなかったかもしれない。
そう思いながら勇輝は立ち上がった。
「あれ、もう帰ります?」
「ええ、夕食の時間ですし」
聖女焼きの効力はもはや尽きつつある。
本格的なエネルギー補充が必要だ。
「えーもうちょっと居ましょうよー。
みんなあなたの話を聞きたがっていますしー」
みんなとは部屋の中にいる女の子たち。
彼女たちは《ベラン隊》。
若い女だけで構成されたベラン先輩直属の女性騎士隊である。
「はあ、なんの話をしたらいいですか?
魔王戦役とか邪竜戦とか……」
「いえいえそんな話じゃなく!」
彼女たちは食い気味に話しかけてきた。
「フォルトゥナートさまにプロポーズされたってお話を聞かせてください!」
キラキラした瞳で見つめてくる女騎士たち。
「またその話かよ……」
やっぱり来るんじゃなかったと思う勇輝であった。





