サバサバ系大女
第二騎士団詰め所はとても簡単にみつかった。
他と比べて背の高い、立派でがっしりとした建物。
機兵が待機している広い敷地。
こんな分かりやすい特徴をしているのだからみつけるのは楽だ。
門の前には二人の兵が見張りとして立っている。
「すいませーん」
勇輝はためらいなく片方の門兵に話しかけた。
「ん?」
しかめっ面をした門兵はムスッとした顔で勇輝の顔を見、直後にのけぞった。
赤い目をした美少女。
直接勇輝に会ったことがない人物でも、目の色を見れば誰だか想像はつく。
「ベラン先輩にお会いしたいんですけど」
「べ、ベラン先輩?」
「えーっと……。
やべ、フルネーム忘れちった。
次にここの騎士団長になるっていう女の人です」
「ど、どういった御用で」
「ちょっと前に占ってもらったんですけど、またアドバイスが欲しくなりまして」
「念のためお名前をおうかがいしてもよろしいですか」
「相沢勇輝です」
門兵はガッシャガッシャと鎧をならしながら駆けていった。
勇輝はその後ろ姿を見つめていたが、やがてすることが無くなってその場に立ち続けた。
「あの、聖女様」
もう一人の門兵が話しかけてきた。
見ればまだ若い男だ。
「なんです?」
「信じてるんですか」
「なにを?」
「あの人の占いを」
どうやら彼はベラン先輩の能力を疑っているらしい。
勇輝も信じ切っているというほどではない。
ただ北へ行くと言われて実際に北の話題が出てきたから、ちょっと気になるという程度だ。
「んー、どうだろ。
まあ参考にはなるかなって」
「はあそうなんですか。
自分はどうも占いなんてものに人生まかせるってのはどうも」
「まあ当たるも八卦当たらぬも八卦っていうしね」
そんな会話をして時間をつぶしていると、先ほどの門兵が軍服姿の男をつれて戻ってきた。
……いや、近づいてくるにつれて、男ではなく女だったことがわかってくる。
高い身長にガッシリとした体格。
男相手でも体力負けしなさそうな、大きな女だ。
「やあごきげんよう聖女様、第二騎士団へようこそ。
自分はジェニー・ディ・ディオニジ。
ジェニーって呼んでよ」
「あっどうも。相沢勇輝です」
ジェニーと握手をかわす。
思った通り力が強い。
「来てよ。ベランが待ってる」
「はい」
ジェニーのすぐ後ろにつくと、大きな背中を見上げるような形になる。
男よりも女にモテそうなタイプだなと思った。
紅瞳の聖女というものは、聖都で知らぬ者のない超有名人である。
ただ誰にでも愛されているかというとそうでもなく、敵対派閥の人間たちからは《赤目の小娘》と呼ばれ忌み嫌われている。
頭のかたそうな中年以上の男性に嫌われる傾向が強く、若者には男女とわず人気が高い。
第二騎士団の人間たちはまさにそんな典型的な感じで、すれ違う騎士たちは二種類の視線を勇輝にぶつけてきた。
好意の視線と嫌悪の視線。
正反対の両者をたばねて指揮しなくてはいけなくなったベラン先輩の苦労を思うと、かわいそうになった。
勇輝はジェニーさんに先輩のことをたずねてみた。
「ベラン先輩はどこにいるんです?」
「いまは仲間たちと占い部屋にこもってるよ。
ところで先輩ってなに?」
「あ、いま通ってる学校の卒業生だっていうんで」
プッ!
ジェニーさんはふき出した。
「例のお姫様ばっかりいるっていう学校?
あんたもそこに通ってるんだ」
「べつにお姫様だけってわけじゃないっすよ。
八割か九割くらいはお姫様ごっこしてるだけのニセモノっす」
「へーっ。
アンタも普段はキンキラキンのドレス着てその《お姫様ごっこ》ってのをやってんのかい?」
「いやいやあんなの無理っすよ」
勇輝は肩をすくめて皮肉に笑った。
ジェニーさんはどうも話しやすすぎる相手で、いつの間にか口調が素に戻ってしまっていた。
「あんな《歩くシャンデリア》みたいなかっこ、重くってズッコケちゃいます」
「ハッハッハ! シャンデリアか、けっさくだね!」
そんな話をしながら通路を奥に進み、階段を上ることしばし。
ようやく目的の部屋までたどり着いた。
「ベランー、お客さん連れてきたよー」
ガンガンガン!
ジェニーさんが勢いよく扉をノックすると、中から「どうぞ~」と声。
ガチャッ。
開けた瞬間、ドアの向こうから紫色の煙があふれてきた。
「オワッ、なんじゃこりゃ!?」
「ふっふっふっふ……、いらっしゃ~い!」
カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中央に、黒いローブをはおったベラン先輩の不気味な姿。
勇輝は帰りたくなった。





