夕食の談話
その日の夕食時。
勇輝は陽があかるいうちに起こったことを家族たちに相談してみた。
第四騎士団長フォルトゥナート・アレッシィと勝負したこと。
その時にあのベアータと同じ技を使われたこと。
北へ旅行中に旅人から習ったということ。
それにくっついてくる情報として、次に第二騎士団長となる女、ベランジェール・ド・ボファンと学園で出会ったこと。
彼女の占いでいつか一緒に北へ行くことも伝えた。
「あの方、まだあなたのこと諦めていなかったのね」
まず口を開いたのはクラリーチェだ。
彼女はシンプルにあきらめの悪い男の恋話だと思っている。
「しかしベランジェール嬢のほうから君に接近してくるとは意外だね。
あまり社交的ではない女性だと聞いていたが」
ランベルトは言いながら刻んでいたステーキを大胆にかぶりついた。
「あー、確かにアレは社交スキル低そうだったな。
俺でさえあのカッコで《白い城》には入れねーわ」
というか聖エウフェーミア女学園そのものに入るのもためらわれる。
あそこは毎日がファッションショーみたいになっている風潮があり、貴族令嬢はもちろん豪商の娘たちも、少しでも自分をよく見せようという意気込みにあふれている。
男性脳の勇輝には若干理解しがたい部分なのだが、どうも美容や装飾によって個人の強弱をはかる尺度があるようなのだ。
男が身長や筋肉で比べあうように、彼女たちは髪や肌、ドレスや宝石で比べあう。
……という認識であっているのかどうかすら、ちょっと自信がない。
ともあれあの《もっさり》スタイルで絢爛豪華な《歩くシャンデリア》どもの中に混ざる根性は、勇輝にすらない。
あのベランというもっさり女、そうとうな奇人である。
「うかつなことをすると下からの突き上げがキツイだろうに。
大丈夫なのかな」
ランベルトはベランの身の上を心配しているようだった。
あのリカルドが鍛え上げた遊撃隊員たちは、ほとんどがリカルドに似て気性の荒い乱暴者ある。
しかも乱暴なだけではなくそれなりに知恵もある。自信もプライドもある。
だからハンパな態度では従ってくれないのだ。
対抗するためにはランベルト自身が強くて賢いリーダーであると誇示し続けなくてはならない。
トップが交代する苦労というものに関して、共感する部分があるようだった。
「そういや団長になるの嫌がってたよ。出世するって大変だな」
「フフ」
そうだね、と言ってしまうと上座で静かに食事しているヴァレリアを批判することになってしまう。
だからランベルトは軽く微笑むだけにとどめる。
静かにグラスを傾けていたヴァレリアは、ランベルトにたずねた。
「ランベルト、フォルトゥナートさんが使ったという技は、それほど珍しいものなのですか?」
「はっ、珍しいかと言われればそれほどでもないかと。
剣を持っているからといって剣だけにこだわるのは、戦場では悪手です。
最終的にとどめを刺すのは剣でしょうが、途中の展開次第では手でも足でもなんでも使います。
むしろ考慮すべきは《呪われし異端者たち》の名を出したにもかかわらずフォルトゥナート団長が否定しなかったところでしょう。
彼がどれほどユウキを好いているのかは分りませんが、異端者呼ばわりされていい気分になるわけはありません。
にもかかわらず否定すらしないということは、技の師匠がうさんくさい人物だと彼自身も思っていた、と予測できます」
「なるほど……」
ヴァレリアはそれ以上何も言わず、静かに食事を続けた。
頭の中で何を考えているかわからないが、無理に口をひらかせてもとぼけるだけなのは知っている。
だから誰も追及せず、食事がまずくなるような会話をやめた。
――明日はベラン先輩のところに行ってみようかなあ。
多少酔いのまわった鈍い思考回路で、勇輝はそんな事を思った。





