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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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よみがえる恐怖と激痛

 泣きのもう一回コールがかかった。


「もう一回、もう一回だけやらせて! 

 これで最後!」


 大男が小娘に頭を下げる。

 人が見ているのに、なりふり構わずだ。

 見栄みえとかプライドとかいうものとは無縁の生きものらしい。


「しょうもない……」


 勇輝はため息をつきながら地面に魔力をとおし、木刀を二本つくりだした。


「こういうのが得意なんだろ、ほれっ」


 片方を投げてやると、フォルトゥナートは嬉しそうに受け取った。


「へへ、そうこなくっちゃ」


 

 ブンッ!



 初めての武器を片手で楽々と振ってみせる。

 迫力のある音がした。

 余裕で人を殺傷できると感じられる音だ。


「へえー、土でできてんのに感触はまるっきり木だな。

 ツヤだしの塗装までしてある。

 これって腐食防止?」

「まあな」


 適当に受け答えをしながら、勇輝は十分に間合いを取って身構えた。

 エウフェーミアから与えられたこの身体、残念なことに肉弾戦にはまったく向いていない。

 筋肉がつきにくい体質なのだ。

 しかし心意気で戦いに応じなければならない時もある。

 今がその時だ。

 体力差は明白。

 せいぜい殺されないように気をつけよう。


 木刀を中段に構え、じりじりと横に動きながら敵の隙をうかがう勇輝。

 一方のフォルトゥナートはだらりと木刀を下げ、弛緩リラックスした状態でジッと勇輝の動きを見つめる。


 ――あ、こりゃダメだ。


 しくも二人同時に同じことを思った。

 実力差がありすぎて勝負にもなんにもならない、と。


 勇輝がこれまで勝ってこれたのはクリムゾンセラフのパワーがあればこそ。

 生身で剣の熟練者、しかもこんな大男と叩きあって勝てるわけがない。


 武道家は道着の着こなしひとつ見ても相手の実力をはかれるという。

 勇輝はフォルトゥナートの油断なくリラックスした様子を見て強さを感じとり。

 フォルトゥナートのほうは勇輝の貧弱な構えと体格をみて弱さを感じとった。


 精神的にはこの時点で勝敗は決していた。

 だが一合もまじえずに戦ったとはいえない。

 せめてもの努力は必要だった。


「オオッ!」


 勇輝は右肩に木刀をかつぎ、猛然と突撃した。

 一瞬にすべてを賭ける。

 無謀だが、慎重にやったってスピードとリズムを敵に覚えさせるだけ。

 だから一瞬、一撃、一発の奇跡にすべてをこめた。


 機兵乗りとしては当然の選択だった。

 かぶとと肩防具を盾として、横からぶつかっていく戦型。

 剣の鋭さ、機兵の重さを武器として、機体ごと悪魔(ディアブル)にぶつかっていく。

 その貫通力は当たり所さえよければ一撃必殺だ。


 だが相手は騎士団長。

 その手の動きはあきるほど見慣れていた。


 勇輝の切っ先がフォルトゥナートにせまる。

 フォルトゥナートは胸板に切っ先がとどく寸前で身をひねり、あえてギリギリのところで一撃をかわした。

 目の前を通り過ぎようとする勇輝の腕をつかむ。

 同時に足を引っかけ、地面に倒そうとする。


「なにッ!?」


 その刹那せつな、勇輝の脳裏に苦い記憶がよみがえった。

 左腕に幻の激痛が発生する。

 殺意みなぎる氷のような薄青アイスブルーの瞳。

 盾ごと刺し貫かれた左腕の痛み。

 


 ――この技、知っている!

 ――過去に受けたことがある!



 勇輝は引っ張られる勢いに逆らわず、むしろ自分から飛び込んでいった。

 前回り受け身の要領で前に転がり、すぐ来るであろう追撃にそなえる。

 ……しかし、来るはずの追撃は来なかった。

 フォルトゥナートは木刀を肩にかつぎ、余裕の姿勢で突っ立っている。


「ヒューッ、やるもんだ、いい反応してんじゃん」


 勇輝がダウンしなかったことを意外そうにホメている。


「……ベアータ」


 しかし勇輝の口からはまったく関係のない単語がこぼれた。

 かつて魔王戦役の夜を引き起こした張本人。

 氷のような薄青アイスブルーの瞳をした、狂気の殺戮さつりくしゃベアータ!

 

「あんた、どこでこの技を習った!?」

「えっ」


 サッとフォルトゥナートの顔色が変わった。

 どこで習った技か?

 実は聖都の人間には言えない場所で習った技だった。


「かつてこの技を使う敵と戦ったことがある!

呪われし異端者たちアナテマ》のベアータって女だ!」

「えっ、えーどうだったかなー?」


 フォルトゥナートは予想外の展開にあせった。

 目の前にいる聖女、相沢勇輝。

 この小娘、性格はバカだが知能はバカではない。

 知能までバカだと思い込んでいたフォルトゥナートは、見せてはいけない技を使ってしまったのだった。


「あー、ちょうどアンタくらいの年ごろに世界を旅して遊びまわっていた時期があってなあ。

 そん時、旅の商隊の護衛をしていた奴に習ったんだったような……」


 半分以上は真実である。

 反抗期に騎士道小説の主役を気取って、実際に世界を旅してまわったことがある。

呪われし異端者たちアナテマ》と出会い信者になったのは、その時のことだった。


「旅の商隊……、どこで出会ったんだ!?」


 さらにふかりしてくる勇輝。

 フォルトゥナートは視線を横にずらしながらつぶやくように言った。


「……北にいく時だな。ジェルマーニアにむかう途中の山奥で、ひまつぶしに習った」

「北!」


 勇輝はどこか納得した様子で大声を出した。

 興味が自分から《北》というキーワードへうつったことにより、フォルトゥナートは危機から脱することができたのだった。

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