押しかけ占い
謎の不審者の身元がはっきりしたところで全員着席となった。
「しかしあんたが騎士団長ねえ。
守護機兵に乗れるんですか?」
「あー、アハハー。
乗るのは苦手なんだけどー、操ることは得意よ」
勇輝の質問は直接的すぎてもはや無礼であったが、ベランは気にした風でもなく答えてくれる。
「それは遠隔操縦?」
「うん」
勇輝は前のめりになった。
「俺は遠隔操縦が苦手なんだ。
エウフェーミアは得意なんだけど俺はどうもそっちがダメで」
「えーじゃああたし、聖女さまといっしょ?」
「エウフェーミアは俺のとおなじ熾天使タイプを十二体同時に操る」
んがっ、とベランは変な声をだして開いた口がふさがらなくなった。
「じ、じゅうにって。
六肢を十二って合計何肢?
あたし四肢を三体が限界なんだけどー!」
「え、そういう計算方法?」
「まあイメージ的にはそんな感じー。
えーっと六×十二は……七十二!?
はああああ……、人間じゃねえ……!」
行儀わるく姿勢をくずし、天をあおぐベラン。
ちなみに《肢》というのは守護機兵の手足やそれに似たものが何本はえているか、という単位。
人間や犬、猫などは四肢。空を飛ぶ鳥も四肢。
クリムゾンセラフや神鳥は六肢。
かつて戦った敵には八肢のペガサスナイトというのもいた。
《肢》の数が増えるほど操縦が難しくなると言われている。
「でも四肢を三体ってのもスゲーんじゃ?
神鳥を二体同時にいけんじゃね?」
「そんな簡単な話じゃないけど……」
これは計画、というより妄想の段階だが。
勇輝とランベルトのあいだで「いっそ将来的には遊撃隊に配備している機兵を全部神鳥にしてしまってはどうか?」という話し合いがすでにされている。
鳥の移動力と人の器用さをかね備えた神鳥は緊急出動に最適であり、今後も数を増やしながらさらなる改良を加えていきたい機体である。
遠隔操縦で使った場合の使用感はどうか? というデータはちょっと興味がある。
「はいはい、二人だけにしかわからない会話はそのくらいにして頂戴」
マリアテレーズ殿下が二人の会話をさえぎる。
いつの間にかお茶のおかわりが届いていて皆に配られはじめていた。
「ベラン先輩、いまはとてもお忙しいのでしょう。
わざわざ来てくださった理由は何ですの?」
「あ、はいはい、ここなら誰にも邪魔されず聖女さまに会えると思って」
「俺に?」
「うん、なんだか知らないけどあなたのことを喋っちゃいけないみたいな空気が第二騎士団内にあってー。
みんなお父さんに気を使ってるみたいだけど別にいいじゃんそんなのーって思う、マジで」
例によって例のごとく派閥争いだ。
勇輝がぶっちゃけて聞いてみた。
「なーんでみんなそこまでヴァレリア様のことを嫌うんだろね。
いい人だと思うけどな」
「あーそれはバリバリ改革してっちゃう人だからー。
人間って年とっちゃうと新しいことするのがしんどくなるみたいでー」
「うーん」
ヴァレリアが困ったり怒ったりする姿を見ているので、勇輝としては悩んでしまう。
ま、それはさておき。
「聖女さまに占いの結果を伝えまーす」
「えっ、あ、はい」
望んでもないのに結果を持ってくる押しかけ占い師。
珍しいタイプだ。
「あなたはー、近いうちに北へ行く日が来ると思いまーす。
行ったほうがいいでーす。
行くときはあたしも行くんで第二騎士団の若手つれて行きましょー」
「北?」
「はい」
「なんで?」
「わっかりっませーん」
「あんたと?」
「はーい」
「それも理由は不明?」
「はーい」
「……よくわかんないなぁ」
北門の守護は第二騎士団の管轄。
北に行く護衛としてはまあ良いかもしれないが。
「北ねえ。聖都の北側って何があんの?」
「まず草原があってー、その奥に大森林がありまーす。
その奥に世界で一番高い山脈があってー。
その向こうにジェルマーニアがありまーす」
「ご丁寧にどーも。
うーん、聖都をはなれる予定はないけどな」
ジェルマーニアは思っていた以上に遠そうだ。そんな所までフラッと行く気にはなれない。
しかしそれ以外の場所にはどういう興味もわかない。
占いらしいと言えばらしいが、雲をつかむような話だった。





