もっさりとの出会い
「私と将来について語り合いましょう!!」
「いきなりなんやねんアンタ!?」
つい関西弁でツッコミを入れてしまった。
「あっ間違えました。
騎士団の将来について私と語りあいましょう」
「いや普通まちがえるソレ!?」
もっさり女は薄汚れた布製カバンから水晶玉を取り出した。
「あたし、こういうものですー」
「水晶玉の訪問販売?」
「はい! 今なら下に敷くお座布団とセットでなんと半額ーってちがう!
占い師! 占い師!」
「売れない占い師?」
「そうなんですよーみんななぜかあたしの言うことちーっとも信じてくれなくってーってそれも違う!
そもそもあたしお金もらったことなんて無いです!
なんでいちいちあたしをからかうんですか!」
アッハッハ、勇輝は笑った。
「いやあんまり不審者だったもんで、まわりが警備員呼ぶ前に緊張感ほぐしておこうかと」
「緊張する必要なんて無いですよもーあたしは世のため人のためにはたらく善良な占い師ですからー」
「フーン」
実際のところ、勇輝が彼女を漫才空間に引き込んだことにより、周囲の令嬢たちは警戒心をワンランク落したようだ。
――なにこの女……?
という冷ややかな視線を向けている。
貴族令嬢たちは傲慢なくせに臆病なので、とっさの際に悲鳴を上げたりなんだりして面倒くさいことになりやすい。
今の流れはパニックを起こさないための気配りだった。
「んで、あんたここに何しに来たの?
ってゆーかこの家、ふつうは入れない場所だよ?」
ここ《白い城》はお嬢様学校の奥にある個人寮だ。
普通の人間は学校の正門で警備員に止められる。
「へーきへーきー。あたしここの卒業生なんで手続きとか事前にしておけばバッチリでー」
「あ、そう……」
だんだん細かいことを気にするのが面倒くさくなってきた。
もともと勇輝は気の長いほうではない。
「えっと、ちょっとまってね、いま準備するんで……」
もっさり彼女のほうも口調がずいぶんくだけてきた。こちらが素か。
ふところから布を取り出すと水晶玉をふきはじめる。
ちょっとした汚れをとってやると、水晶は透明感が出てさらに輝きをました。
ここで、二階からこの城の主、マリアテレーズ皇女殿下が着替えを終えて降りてきた。
後ろに女騎士ダリアがついている。
「今日はなんだか騒がしくてよ?
こんどは何をやったのユウキ?」
ひどい話だ、勇輝のせいだと頭から決めつけている。
まあここで起こる騒ぎの99%は勇輝が関係しているが。
「あら?」
皇女殿下がもっさりの姿を見つける。
「あっ」
ダリアも何か気づいた様子だ。
「お久しぶりです皇女殿下。
ダリアちゃんもお元気そうで」
もっさりはごく慣れた雰囲気で立ち上がり、もっさりと一礼した。
「本当にお久しぶりですわベラン先輩。
来てくださるならご連絡いただければ良かったのに」
「ごめんなさい、急にビビッときちゃって」
――ビビッてなんやねん。
勇輝は心の中でツッコミを入れたが、マリアテレーズとダリアは一緒になって笑い出した。
「変わりませんわね」
うれしそうに微笑むマリアテレーズ。
「うわさは聞いていますよ。
さぞ大変でしょう」
どことなく男っぽい仕草で気づかうダリア。
「ええ、ええ、本当にまったく。
いくら親の縁故でもこんな乙女を騎士団長にだなんて、まいっちゃう!」
ベラン先輩と呼ばれたもっさり女は、よく分からないことを口走った。
「ん? 騎士団長? え?」
意味が分からない勇輝はもっさりとダリアの両方をキョロキョロと見る。
「ああ、ユウキ様は知らないんですね。
こちらはベランジェール・ド・ボファン様。
第二騎士団長ジョルダン・ド・ボファン様のご令嬢です」
「えーっ! このもっさりが!?」
勇輝の容赦ないバッサリ評価に、もっさり嬢、もといベラン嬢はちょっとヘコんだ。
「……そんなにもっさりしてないもん」
ぶつぶつつぶやきながら、でも上着の毛玉をプチプチとちぎり始める。
その様子はやはりもっさりしていた。





