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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第五章 闇からの救世主

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騎士団総長

 第一騎士団長フリードリヒ・フォン・ギュンダーローデは聖都のはるか北方ジェルマーニア帝国の、皇室の遠縁にあたる名家の出である。

 細かくいうと先々代の皇帝の弟の息子の次男の次男である。おぼえる必要はない。

 以前にも似たような経歴の男がいたが、《高貴な家柄の者が神にその身を捧げれば、その家は数代にわたって繁栄が約束される》という宗教的慣習によってこの聖都へ送られてきた人物である。

 はたして皇位継承権が現在何番目になるのか、本人にすらわからないほど遠い立場だ。

 しかし聖騎士団内でもっとも高貴な生まれなのはまぎれもなく、エリート集団である第一騎士団を束ねるのにふさわしい人物といえた。

 

 歳は今年で四十五になる。

 輝く金髪をオールバックにまとめ、細身の涼やかな風貌ふうぼうをしている。

 これでは優男やさおとことして部下たちからナメられてしまうということで口ひげをはやしているが、それでも多少は威厳がついたかどうかという所。

 名家の出らしく伝統と格式を重んじ、構造改革を推し進めるヴァレリア長官とは水と油の関係である。


 しかし本日、彼はあえて気にくわぬ女長官の下をおとずれた。

 第四騎士団長フォルトゥナートの提案をまとめあげた書類をもって。


 改革好きの女狐に今日は目にものを見せてやろう。

 この案は断れないはずだ。


 そう意気込んでの入室だった。







「騎士団総長、ですか」

「そうです」


 現在の軍務省は長官の下に五人の騎士団長がいる。

 それぞれの騎士団長はみな同格であり身分に上下の差はない。

 年齢や功績の度合いによって敬意をしめすとか、そんな程度だ。


 曖昧あいまいだからこその良い点もあるかもしれない。

 しかし前回の戦いがそうであったように、上下関係がはっきりしないせいで自分勝手な命令無視が発生する点、大きな問題があった。


 だから五大騎士団長の中からその上のくらい、騎士団総長というポストを新設しようというのがフリードリヒのもってきた案であった。


「まあまあ……」


 いつものようにノンビリと振る舞うヴァレリアであったが、書類を持つ手がかすかにふるえたのにフリードリヒは気づいた。


「これはどなたの案でしょう?」

「第四騎士団長殿ですな。第二、第五の団長の賛成も得ております」


 つまり反ヴァレリア派の総意。


「ド・ボファン団長は退役なさるとうかがっております。

 とすると、初代総長は最年長となる貴方あなたということになりますか?」

「いやいや、そうお決めになるのは気がお早い」


 フリードリヒは愛想笑いをうかべた。

 幼少の頃よりキッチリ教育されてきた笑い・・である。

 まるで太陽のように明るい笑顔だった。


「これはまったく新しいこころみ。

 みなで協議せねばなりません。

 長官殿と五人の団長、そして遊撃隊長殿もふくめて」


 もっともらしいことを言う。

 だが初めから過半数をにぎっている以上、これは出来レースの選挙になる。

 まず間違いなくフリードリヒの勝ちだ。


「確かにうけたまわりました。

 これはぜひ評議会にかけあってみる必要がありますね」

「おお、ご賛同いただけますか」

「ええとても素敵なご提案ですね」


 ヴァレリアもおだやかで母性あふれる笑い・・をうかべた。

 しかし内心では、



 ――これはどうやら一本取られましたね。



 と思っている。

 

 聖騎士団の構造に問題があるのは事実で、もちろん改善するべきだ。

 そういう意味で騎士団総長という階級を新設するのは理にかなっている。

 これまで《なんとなく》でやっていた命令系統がハッキリ一本化されることで前回のようなミスも減るだろう。


 だがそれは、長官が直接騎士団員に命令しづらくなることも意味する。

 ヴァレリアからフリードリヒへ、フリードリヒから五大騎士団長へ。

 そういうワンクッションはさんだ流れで命令するのが当たり前になると、直接動かせるのが遊撃隊だけになってしまう。

 これでは昔に逆戻りだ。


 しかし反対する理由が無い。

 だからヴァレリアは表面上賛成するしかなかった。

 五大騎士団長のうち四人もの承認をえた提案である。

 明確な理由もなしに却下きゃっかはできない。

 おそらく騎士団総長新設というアイデアは実現してしまうだろう。

 だがそれでも今のヴァレリアには、上機嫌で退室していくフリードリヒを止める手段が無かった。



 ――真に警戒するべきは目の前のフリードリヒさん、ではない。



 笑顔で見送りながら、ヴァレリアは別の顔を思い浮かべた。

 フォルトゥナート・アレッシィ団長。

 いつもヘラヘラ笑って仕事をサボるいい加減なだけの男だと思っていたが、どうやら違うようだ。

 フリードリヒは大貴族のお坊ちゃん育ちとはいえ、この年までそれなりに活躍してきた男である。

 それを手のひらで鮮やかに転がしてみせる手腕。なぜ今まで隠していたのか?



 ――認識をあらためなくてはいけませんね。



 愛想笑いを浮かべる必要がなくなった瞬間、ヴァレリアは別人のような顔になっていた。

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