第四の男
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら、第四騎士団長フォルトゥナート・アレッシィは問う。
「え~、なんで邪魔すんのマッキー?」
「貴様が暴言を吐きそうだったからだ」
マキシミリアンは目の前の大男に臆することなく答えた。
「ジョルダン殿のお気持ちを考えろ。
不用意な発言は許さん」
「やだ~コワ~イ」
厳しい眼差しでにらまれても、フォルトゥナートはニヤニヤ笑っていた。
「でもさジイちゃん、アンタが抜けちゃったら北の守りはどうすんの?
みんなキツイと思うなぁ~?」
「そ、そうですともジョルダン殿、今すぐというのは時期尚早ですぞ!」
第一騎士団長フリードリヒが話題に食いついた。
今やめられては困るのだ。
現在聖騎士団上層部の親ヴァレリア派と反ヴァレリア派の割合は3:4。
次の第二騎士団長がどういう人物かによって天秤のかたむきが変わりかねないのだ。
「……あとのことは副団長に。わしの娘に託す」
プッ!
フォルトゥナートは遠慮なくふき出した。
「マジで! あの電波女に!」
「だまれ貴様!」
マキシミリアンはとうとうフォルトゥナートの胸ぐらをつかんだ。
「貴様には思いやりというものが無いのか!」
「あるってば。あるから優しく話しかけてんじゃん」
「今の会話のどこが優しい……!」
日ごろは冷静なマキシミリアンがみっともないほど興奮している。
この男の軽薄なにやけ面を見ているとどうしても調子が狂うのだ。
フォルトゥナートのほうもわざとマキシミリアンが怒るように仕向けているふしがある。
年がら年中しかめっ面をしている男が赤くなったり青くなったりするのが面白くてしょうがないのだ。
「だーかーらー、なんでリーダーがジイちゃんを引き留めたがっているかっていう部分を、解決してあげようってんだよ、ねっ?」
フォルトゥナートは胸ぐらをつかまれたままでフリードリヒにむかってウインクをした。
「む、むむ?」
フリードリヒはわけが分からず目を白黒させている。
「なんでも何も、分り切っているではないか」
派閥争いで負ける可能性が出てきた。
もし負ければ自分たちに未来はない。
「そうでもないと思うな」
「なに?」
「マッキーもみんなもマジメすぎるんだよ。
だからあのオバサンにいいようにやられてるんだ」
あのオバサンとはヴァレリア・ベルモンド長官のことだ。
「改革だよカ・イ・カ・ク。
あのオバサンがだーい好きなことをオレたちもしてやればいいのさ。
そしたらジイちゃんものんびり墓参りでもなんでも出来るようになる」
フォルトゥナートはニッコリと嫌味のない笑顔でジョルダンに微笑んだ。
まるで笑顔に誘い込まれるような感じで、ジョルダンは重い口を開いた。
「……なにをしようっていうんだね」
「そりゃあもう」
フォルトゥナートは自身の大きな身体をクルリと一回転させ、フリードリヒを指し示した。
「我らがリーダーにもっともっと出世してもらうのさ!」
「な、なに、私か!?」
一体なにをさせられるのかまったく予想がつかず、フリードリヒはオロオロと動揺する。
あとの二人もフォルトゥナートのマイペースに圧倒されてだんだんと口数が減っていく。
軽薄そうな第四騎士団長殿の口から発せられたアイデアは、まさしく固い頭からは出てこない逆転の発想だった。





