激突する閃光の下に
しかし勇輝の求めに即、応じた者は一人もいなかった。
無理もないことで勇輝は邪竜のドラゴンブレスと激しく撃ち合っている真っ最中なのだ。
撃ち負けたら万が一にも助からない。
骨も残らずに死ぬ。
そんな状況下にためらわず飛び込める人間なんていなかった。
しかしそれでも一機、誰よりも早く参加してくれる者があらわれた。
それは同じ家に住む家族。ランベルトだ。
『結局こうなる予感はしていたよ!
最後の最後はいつも聖女の出番なのかな!』
ランベルトが参加したとなれば、もう一人も当然のようについてくる。
クラリーチェも輪に加わった。
『まったくいつもいつもいつもいつも……!
たまには楽に終わってほしいんだけど!?』
四人の力が合わさって、少しずつエネルギーのぶつかり合いが有利になっていく。
だがそのまま黙ってやられてくれる甘い相手ではなかった。
『グオオオオオッ!』
邪竜の出力が上がった。
まだ本気を出していなかったのだ。
さらに精神攪乱の思念波を飛ばしてくる。
向こうもなりふり構わずだ。
キイィィィィン……!!
『ううっ……』
不快な怨念が脳に直接響いてくる。集中できない。
せっかく逆転したのにまた不利になってしまった。
『た、頼む、協力してくれ……!』
苦しそうな勇輝からの通信を聞いて、今度は遊撃隊の一部が加わる。
『チッ、しょうがねえ、手の空いている奴はついて来い!』
リカルド隊長みずから先頭となって参加してくれた。
上の者が率先して来てくれたおかげで、周囲の騎士たちも少しずつ集まってきてくれる。
だが全軍というわけにはいかない。まだ敵の上陸部隊が勇輝を狙って侵攻を続けている。
無防備ないま横から攻撃されたら完全にアウトだ。
食い止めてくれている部隊にも十分な人数を残す必要があった。
『ああああうるせえっ!
何とかならねえのかこのクソうるせえ魔法はよ!』
『なんとかなるならとっくの昔にやってますよ!』
魔力を送りつづけながら喧嘩する勇輝とリカルド。
せっかく人数があつまっても、強烈な不快感に襲われて集中することができない。
『ちくしょう、もうエネルギーがもたねえ……!』
エッガイたちが集めてきた聖都内のエネルギーが尽きかけている。
完全になくなってしまったらお終いだ。
『くそーっ!』
劣勢を覆す術がもう勇輝には無かった。
聖女と邪竜が撃ち合うさまを見ても、第五騎士団長マキシミリアン・ロ・ファルコは決断しかねていた。
自分も聖女のもとに行くべきか行かざるべきか。
そしてそれ以上に、部下を行かせるべきか行かせざるべきか。
場の雰囲気は行くべきものになっている。
部下の中にも行きたがっているものが何人もいるようだ。
だがあれはとんでもない大博打だ。
失敗したらあの場にいるものたちは全滅する。
一時的にせよ全体の指揮を預けられた身として、そう言う雰囲気になったから、などという理由で大勢の命を賭けることなどできない。
そもそも危険だから密集するなと言っていたのはあの聖女ではないか。
戦況は千変万化するものとはいえ、言っていることとやっていることが矛盾している。
感情まかせで戦ってはいけない。
一か八かの勝負というのはギャンブラーのすること。
騎士は泥と屈辱にまみれてでも戦い続ける必要がある。
幸いというかなんというか、目の前に相手をしなくてはいけない敵がいた。
この者どもを斃さねばならぬから部下を行かせられぬ。
そういう言いわけができる状態だった。
……その一方であの撃ち合いに負けたら、自分たちを待っているのは地獄の日々だということ。
それもマキシミリアン団長は冷静に予想できていた。
生き残ったわずかな民衆を引き連れての絶望的な逃亡生活になるだろう。
水や食料もろくになく、兵も装備もたりない旅路だ。
飢えて死ぬ者。襲われて死ぬ者。奪い合いになって死ぬ者も出てくるだろう。
百万人以上いる聖都の民のうち、もしかしたら数百人しか生き残れないような結果になるかもしれない。
そんな状態に対する備えを選んで、勝機をみすみす見逃すのが正しい選択と言えるのか……?
あまりにも悩ましい選択だった。
しかし決断しなくてはいけない身分を与えられていた。
質がわるいことに、目の前に敵という、都合の良い時間かせぎ相手がいる。
あれこれ考えているうちにすべては終っていた――なんて、そんな甘えが許されてしまいそうな状況。
(駄目だ、駄目だ)
マキシミリアンはおのれの弱さと懸命に戦った。
楽な道に流されるな。
決めねばならない。
漢として。騎士として。責任者として。





