アガガウ心
さらに続々と敵味方が集まってくる。
『オウ生きてるかクソガキ!
お友達つれて遊びに来てやったぞオラア!』
面白くないジョークを怒鳴るのは遊撃隊隊長リカルド・マーディアー。
ちなみに彼らはクリムゾンセラフにせまる悪魔を追撃してここまで来た。
連れてきたのではなく、むしろ連れてこられた立場である。
『元気っすねぇ、いつもいつも』
『ったりめえだァ! 祭りで上品ぶるのはバカのすることよ!』
さんざん死人が出てるのに祭りときた。
悪ふざけが過ぎる。だがこれがリカルドの戦い方なのだ。
暗い顔をしていては部下の戦意が萎える。
猛獣、野蛮、粗暴、様々な言葉で人はリカルドを罵るが、そういう人々のほとんどすべてはリカルドより戦うのが下手なのだ。
上に立つ者は下に弱々しい背中を見せてはいけない。
実績と経験にもとづいた、確固たる信念があっての行動だった。
『ブチ殺せエエエ!!』
シンプル極まりない命令が戦場にこだまする。
『ウラアアア!!』
彼に率いられる部隊もまた、野獣と化して敵と激突をくり返す。
さらに各方面で戦っていた敵味方がドンドン戦場に参加。
勇輝とルカの目の前は、とてつもない混沌の坩堝と化した。
『よしいくぞルカ』
勇輝は幼い相棒に声をかける。
ようやく発射準備は整った。
決着をつける時だ。
てっきりいつものように元気な返事が飛んでくるものと思ったが、意外にも無反応だった。
『…………』
『ルカ?』
ブルブルブル。
ルカは今さらふるえていた。
『いまさら怖くなっちまったか』
『そ、そんなことないもん!
そんなことないけど……』
しかし現にルカはふるえている。
動き始めたばかりのころはとにかく夢中で目の前のことにいっぱいいっぱいだった。
だが思いもよらず準備時間を得て、他の戦いをじっくり見ているうちに恐怖心と緊張感が芽生えてしまったのだ。
『ボ、ボクはっ、ボクはねっ』
頑張って強がろうとするルカ。
だがそれでもふるえは止まらず、顔色も悪い。
『まあそんなもんだよな。
俺だって毎回似たようなもんさ』
『えっ』
てっきり帰れとか休んでろとか言われてしまうと思っていたルカは目を大きく見開いて、勇輝の顔を凝視する。
勇輝は気恥ずかしそうに苦笑いしていた。
『ベータの言葉を思い出せよ。
勇気とは、なんだ?』
『ゆ、勇気? 勇気は、えっと……』
胸に刻まれたベータの言葉が脳裏に響きわたる。
《勇気とは恐怖に負けない心。抗う心だ》
今は亡き親友の言葉を幼い魂は叫んだ。
『勇気はまけない心、アガガウ心!』
『えっ』
『えっ』
勇輝の目は点になった。
ルカは何でそんな反応されるのか分らなくて言い直した。
『アガガウ心だよ!』
『……』
なんとも言えない顔で黙ってしまう勇輝。
『えっ』
オロオロするルカの顔を見て勇輝は気を取り直した。
『オーケー! 細かいことは後だ!
その気合をボスにぶちかましてやろうぜ!』
『う、うん!』
『エッガイチーム! ありったけ全部の力を大砲にこめろ!
後のことは考えなくていい!』
『了解』
大型大砲にこれまで以上の巨大エネルギーが蓄積されていく。
上空を見れば邪竜のほうもコンディションがととのったようだ。
おたがい最大最強の一撃をくらわす時がきた。
『空飛んでるやつは道をあけろ!
ゴツイやつをブチかますぜ!!』
全軍にむかって通信を飛ばす。
味方が大砲の射線上からいなくなった。
目の前にいるのは邪竜と、邪竜の眷属のみ。
道が開けたので敵がクリムゾンセラフめがけて殺到してくる。
その後ろで邪竜が口をひらき、ブレスのエネルギーを溜めていた。
やはり手下ごとこちらを焼き滅ぼすつもりだった。
しかしそんなことはあらかじめ読んでいる。動揺はしない。
『くらいやがれーッ!!』
『ゴアアアアッ!!』
両者の渾身の一撃が空中で激突する。
間を飛んでいた邪竜の眷属は一瞬で消し飛んだ。
『ううっ!?』
勇輝はまばゆい光を浴びながら顔色を変えた。
わずかにパワー負けしている。
ジワジワとこちらが押されていた。
ここに来るまでにエッガイたちを消耗しすぎたのだ。
一瞬、勇輝は邪竜と目が合った。
その目が嗤っていた。勝ち誇っていた。
……勇輝は、キレた。
『ざっけんじゃねえこの肉ダンゴが!!』
勇輝は大砲に自分の魔力を送り込んだ。
エッガイたちはもう力つきた。
こうなれば自分たちの力でやってやる。
『ルカ! お前もやれ!』
『うっ、うん!』
『ウオオオオ!』
『ワアアーッ!』
二人の魔力が追加されて、はなたれる閃光のパワーが増した。
エネルギーのぶつかり合いは再び中央にまで押し返される。
『みんなも力をかしてくれーっ!
この肉ダンゴ野郎にトドメを刺すんだーっ!』
勇輝は全軍に叫んだ。





