決戦の舞台
「オイオイオイ……」
勇輝は敵味方がこちらに殺到してくる様子を見て冷汗をかいた。
邪竜が生みだした眷属たちにはどうやら自我がない。
そのためどんな無茶な命令にもかならず従う。
たとえば今、交戦中だった目の前の敵を無視してクリムゾンセラフのみに殺到してきている。
敵が突然背中を見せたのだから騎士たちはその背中を斬る。
斬っても反撃してこないのだからそのまま斃せる。目の前の敵を斃したのだから次の敵も狙う。
そんなこんなで騎士たちは追撃戦の形となる。
眷属たちの行き先がクリムゾンセラフなのだから、騎士たちのむかう先もクリムゾンセラフの方向になってしまう。
そんなことが海岸のいたるところで同時に発生した。
勇輝の側からすれば守護機兵も悪魔も全員自分に突っ込んでくる、という怪奇現象。
もしかして俺は裏切られたのか? 寄ってたかって殺されるのか?
などという気分になった。
こんな状況でドラゴンブレスを浴びたら一瞬で壊滅だが、幸い邪竜にはまだその気配はない。
だが、時間の問題だろう。
邪竜は敵味方の区別なく焼き払う。直前にそういう無慈悲なことを実際やった。
敵味方がゴチャ混ぜになった密集地帯をブレスでなぎ払う。
そういう計画でいることは間違いない。
「そうはさせねえよ」
勇輝はさらに土台の床面積を拡大させていく。
デカイのが集まってくるというなら、それを逆に利用してやる。
クソ重い巨体が大量に乗ればさすがにひっくり返ったりしないだろう。
作業に没頭していると、ランベルトの操る神鳥が大量の敵と戦いながらやって来た。
銀の鷹を邪竜が吸収し新たに生み出された赤黒いグロテスクな鳥。ざっと二十羽ほど。
そんな中に神鳥だけがポツンと存在している。
味方は速さについてこれず置いてけぼりになっているらしい。
『大丈夫か! 助けに来たぞ!』
助けに来たのか、助けられに来たのか。
そう言いたくなる光景。
『無茶すんなよ兄貴、敵対心がこっち向いてなきゃ死んでんぞ』
邪竜の関心がクリムゾンセラフに全集中していなければ確実に拉致されて化物どもの仲間入りだったろう。
だがランベルトは笑って否定した。
『そうでもないさ!』
ゴオオォーッ!!
ランベルトの気合を受け止めて、神鳥が高速回転をはじめる。
さらに手足の爪から真空波が巻き起こり、周囲の敵を八つ裂きにした。
『ようやく神鳥の使いかたがわかってきたところだ!』
なんと嬉しそうだった。
しかも勇輝が想定していなかった戦い方を生みだしている。
元々は風魔法なんて使えなかったはずだ。
新しい武器と戦場を得て、彼も進化している。
どうやら神鳥はすっかりランベルトの物になったようだ。





