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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第四章 ボクの夢は聖女さま!

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勇気の道

「なおして!」


 ルカは半狂乱になって勇輝に訴えかける。


「ベータがこわれちゃったよ、なおしてよ!」

『あ、ああ!』


 勇輝はクリムゾンセラフに乗ったままベータの頭部に近づき、機兵の人指し指で触れる。

 身体をつくるのなんて造作もない。砂地を魔力で加工し、十秒たらずで出来あがった。

 しかし。


「ベータ、ベータ!

 うごかないよおねえちゃん!」


 ルカがベータに抱きつき、ゆさぶっている。

 しかしベータの反応はない。


『まずい……』


 外見はもう直った。だが内部の人工知能が損傷している。


 物理的に破損した状態で限界まで活動したからか。

 それとも基本構造を無視して蓄積ちくせきされたエネルギーを使ったりしたからか。


 どちらにせよ、100%の修復は不可能だ。

 壊れた部分を新しく作り直しても、その部分はまっさらな新品。

 失われた記憶は戻らない。


 たとえば生物の細胞は破壊と再生をくりかえし新しくする機能があるが、脳細胞はこれに当てはまらない。

 なぜそうなっているかというと、新しい脳細胞に変わるたび記憶きおく喪失そうしつになってしまうからだ。


 人間の身体は三か月で大部分が新しい細胞に入れかわるという。


 もし三か月以上昔の記憶を維持できない人間がいるとしたら、どうなるか?


 その人物は赤ちゃんの心のまま、言葉もしゃべれず、泣くことしかできず、自分が何者かもわからない人生を送ることになるだろう。

 情報を蓄積し成長するために、脳細胞には入れ替わる機能がない。


 ベータはその脳にあたる部分が大きく破損していた。

 ルカを守るために、自分の身を犠牲にしたのだ。


 勇輝は迷った。

 なんにも知らないふりをして不完全なベータを再起動させるか?

 それとももう元には戻らないという真実を告げるか?


「おねえちゃん?」

『…………すまん、ルカ。

 ベータはもう、元には戻らない』


 勇輝は真実を告げた。

 深い考えがあっての選択ではない。

 口が勝手に言葉をつむぎ出したような、そんな感覚だった。


「グスッ……」


 泣き叫び文句を言ってくるものと思ったが、そうはならなかった。

 ルカはその場にひざをつき、静かに涙を流した。

 頭部のみの動かぬ死体になった時に、子供ながら何かを察していたのかもしれない。


 せっかくできた新しい友達だったのに。 

 大きくて、柔らかくて、お兄さんのような存在だった。

 でももう居なくなってしまった。

 ルカを守るために死んでしまった。


『ルカ』


 勇輝はクリムゾンセラフの右手をルカの前に差し出し、搭乗席のハッチを開いた。


「ルカ!

 危ないから、お前もセラの中に来いよ!」


 いつまた同じ暴風が飛んでくるかわからない。

 飛ばされたら今度こそ最期だ。


「ルカ!

 手に乗るんだ!」


 呼びかけられてルカは立ち上がった。

 クリムゾンセラフの手を見て、トボトボと歩く。

 しかし手前で立ち止まってしまう。


「あ……そうだ……」


 ルカは何か思い出したようで、立ったまま動かないベータの姿を見つめた。

 ベータが遺した最期の言葉。


「勇気は、まけないこころ。あらがうこころ」


 ベータが教えてくれた。

 勇輝も騎士のみんなも戦うのは怖いのだと。

 怖いけれど勇気をだして戦うのだと。


「ベータが言ったんだ」

「ルカ!?」

「ゆめをかなえたいなら、アレにのれって!」


 ルカは走り出した。

 涙をぬぐい。歯を食いしばって。

 走るその先に《ネクサスⅡ》が倒れていた。

 暴風で倒され横たわるその姿はまるで乗る人間が来るのを待っていたかのようだ。


「おいちょっと待て、お前にはまだはええよ!」


 ルカの考えを察して止める勇輝。

 しかし勇輝は気づいていなかった。

 少女の小さな背中は、かつてランベルトが止めた背中と同じであることを。

 今、自分が聖女として認められているのは、まったく同じ無謀な勇気に突き動かされたのが始まりだったのだということを。

 

 ルカは正しく夢にむかって走り出したのだ。

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