心の絆
数と装備で勝っていたはずの人類側が、反対に押され始めている。
人類の力がまったく無力であったわけではない。
現に巨大であった肉塊はすこし痩せ衰え、姿を見せたばかりの時にくらべ小さく縮んでいる。
しかし小さくなったおかげで空を飛びやすくなった、とも言える。
聖騎士たちはよく戦っているが、決め手に欠けるといったところか。
決定打になりうる《必殺技》。
そんな便利なものがあればとっくに使っている。
唯一可能性があるとすれば、紅瞳の聖女・相沢勇輝が開発中だった《エッガイシステム》だろう。
だがそれも試し撃ちすらろくにやっていない未完成品だった。
とはいえ勇輝は実戦使用するつもりでエッガイたちを戦場に集結させている。
市民たちが発したエネルギーを収拾して再利用するという《エッガイシステム》。
今はまだ制御すらままならない危険な力だが、どうやら出番が回ってきそうである。
ゴロゴロゴロゴロ……!
武骨で巨大な大砲が車輪に乗せられ、砂浜に姿をあらわした。
命中させるためにはガッチリ固定して安定させする必要がある。
クリムゾンセラフ、ネクサスⅡ、そしてエッガイチームは巨大大砲の設置を急いでいた。
ところがそんないそがしい現場に、小さなお邪魔虫が一人。
「うわーっ、ベータ、ベータ!
なにアレ、あかいケンタウロスとたたかっているよ!」
大砲の上で観戦しているルカがベータ相手に興奮している。
『あれはあの巨大な悪魔が生みだした新種と思われる。
友軍は苦戦している様子だ』
「えーっやばいよー!」
もう勇輝は帰れというのをやめた。
今この場を離れたらむしろ危ない。
敵味方の戦闘に巻き込まれたら目も当てられない。
大忙しで戦場を駆けずり回っている補給部隊にはねられる危険もある。
そんなことになるくらいならこの場で守っていたほうが安心だ。
「この一発で決めてやる」
大砲を固定するための土台を構築しながら、勇輝はひとりつぶやいた。
決めてやる。いや決めなければならない。
はっきり言って不安要素しかないが、それでもこの大砲がいま聖都で一番破壊力がある武器なのは間違いないのだ。
これでも倒せないならもう聖都の人間たちは逃げるしかなくなる。
十分の一か、百分の一か、もしくはもっと少ない人間しか生き残れないだろう。
しかも人類滅亡まで視野に入れた地獄の逃亡生活である。
そんなことはさせられない。
「魔王戦役以来か、ここまでのは」
いつだって聖女の戦いは負けられないものばかりだが、今日の戦いがこれまでで一番重たいかもしれない。
勇輝の後ろに聖都がある。聖都の後ろに世界がある。
不安だなんて言ってられない。
だが人類そのものを背負うのはさすがに重い。重すぎる。
『ユウキ様、土台はもっと強固で大きなものにしたほうが良いかと』
「ん、そっか」
クリムゾンセラフの人工知能セラにすすめられて、勇輝は素直に従った。
『ユウキ様』
「ん?」
『搭乗席がかすかに振動しています。もしかすると恐怖しているのですか』
「……まあね」
『私は聖女の鎧、あなたの身は私が必ずお守りします』
「ありがと」
『私に、もっと力があれば良いのですが』
「えっ」
たまに人間臭い事を言うセラだが、今日は特に強くそれが感じられた。
『私はあなたを包み、あなたに従うことしかできません。いっそ十二天使のお兄様たちがここに居てくださればと、そう思わずにいられません』
ジェンナイオのような『盾』があれば。
フェブライオのような『攻撃魔法』があれば。
ファウスティナのような『支援魔法』があれば。
誰か一人でもいてくれれば、目の前の戦場がはるかに楽なものだったことは疑いようもない。
「それでもお前がいなけりゃ、俺は何度も死んでるよ」
『はい』
「未熟者同士、仲良くやっていこうぜ。
俺にはお前が必要だ」
『はい!』
共通の敵を持つことで心の絆は深まりあう。
主従の絆を深め合っているうちに、戦場に動きがあった。
人類側、聖騎士たちが集結し、部隊の再編成を行っている。
敵の上陸部隊を何とかしなければらちが明かないと判断した各騎士団が、それぞれ勝手に配置を変えだしてしまったらしい。
「いや、ちょっと待て、それヤバいって!」
敵はまだ最強のカードを隠しもっている。
密集隊形なんて組んだら、ドラゴンブレスの絶好の餌食だ。





