奪われた翼
海面から敵影が飛び出してくる。
水飛沫に隠れたシルエットは、これまでよりもひと回り大きい。
『大物だ!』
誰かが歓喜した。
何をのん気に喜んでいる。未確認の新手かもしれないのに。
味方の様子はやはりおかしかった。
目先の勝利に酔って浮かれている。
浮かれていたから用心をおこたった。
敵影の変化をその目で見ていたのに。
ドスッ!
喜び勇んで急降下していった銀の鷹の頭を、鋭くとがった棒状のものが刺し貫いた。
頭をつらぬかれた鷹は制御を失い、海に沈む。
その一機を皮切りに何機もの仲間が謎の武器につらぬかれ、海の藻屑と化した。
『グルルルル……!』
うなり声をあげる醜悪な化物。
例のトビサメの上に、魚人がまたがっていた。
味方をつらぬいたのは魚人の銛である。
サメの単調な噛みつき攻撃にすっかり慣らされていた人類側は、突然の投擲攻撃に対応しきれず被害者が続出した。
『た、助けろ! 戦友を食わせるな!』
ボトボトとゴミのように落下していく機体を助けに行く聖騎士たちがいた。
しかし彼らも同じく化物の餌食となってしまう。
海中で待ち構えていた敵の第二波をまともに受けることとなってしまった。
仲間の遺体をかかえた状態で回避は難しく、ミイラ取りがミイラになってしまう。
『あ、ああ……、マルコ、アラン、そんな、そんな……』
三角顔の男が戦友の名をつぶやきながら、何度も首を横に振っている。
丸顔と角顔の姿がない。今の攻撃で犠牲になってしまったらしい。
悲痛な声を聞かされてランベルトも重苦しい気分になる。
『何ということだ』
やはりあれは罠だったのだ。
何体もの飛行型機兵が墜とされた。
彼らの死はとてもとても悲しいものだが、悼んでいる余裕はない。
あってはならない事態がとうとう発生してしまった。
ブワッ! バサッ!
醜悪な肉塊の背に、メタリックな銀色の翼がはえた。
二十対ほどの大量の翼。
ちょうど撃墜された仲間の数と同じくらいのような気がする。
大量の翼が力強く羽ばたく。
おぞましい肉塊が宙に浮かび上がった。
それはまったく悪夢のような光景だった。
強固な鱗に守られた邪竜の頭。
数限りなく小型悪魔を生みだし続ける、醜悪な肉の身体。
海水に沈んでいた部分からは巨大な海草と烏賊の触手がはえており、自由自在に動きまわっている。
醜悪そのものの全身の中で唯一、背からはえた翼たちだけが美しく陽光に輝いていた。
『ふ、ふざけるなよ、返せ!
それは我が友の翼だ!
返せーっ!』
男が激昂して銀の鷹を突撃させた。
猛烈な勢いのまま翼の一つに鉤爪を突き立て、そのまま引きちぎろうとする。
ボコッ……!
彼の真後ろの肉塊から、銛をかまえた魚人が生みだされた。
魚人は音を出さぬようゆっくり慎重に銛をかまえる。
『いかん!』
ランベルトは反射的に神鳥を急降下させていた。
因縁のある相手である。
とうてい好きになれそうもない男たちだった。
だがそれでも身体が勝手に動いてしまったのだから仕方ない。
『飛べっ!』
三角顔の男に怒鳴りながら、右の鉤爪で魚人を八つ裂きにした。
『貴殿、なんのつもりだ!』
『知るか! 機兵が勝手に動いただけだ!』
ボコッ! ボコッ! ボコボコボコ……!
魚人が大量に生みだされてきて、二人の機兵を包囲した。





