戦場の不協和音
巻きあがった砂煙にまぎれながら、マキシミリアン団長は部下とともに後退する。
――頭の悪い小娘だと聞かされていたが。
人のうわさなどというものはあてにならぬなと、団長は感心した。
勇輝が起こした爆発によってマキシミリアンは敵の拘束から解放され、さらに砂が巻きあがることによって格好の目くらましとなった。
瞬時に判断してこの状況を作ったのだから、上々の判断力ではないか。
『感謝する、聖女殿』
『ウッス!』
可憐な美貌に似合わぬぞんざいな言葉が返ってきた。
頭が悪いとは、こういう意味の話か。
『他も援護してきます!
団長さんはみんなにもっと分散するよう指示してもらっていいですか?』
マキシミリアンは眉をひそめた。
現場の指揮をあずかる騎士団長にむかって指図するのも気に食わんが、その内容も不可解だ。
『分散させては敵の歩兵に対応できん。各個撃破される』
『あーそれは大丈夫っス』
小娘が軽薄そのものの顔で言うものだから、マキシミリアンの顔はいよいよ不快そうにゆがんだ。
『アイツの狙いはドラゴンブレスで一気にケリつけることです。
ザコ敵は釣り上げるためのエサなんで、本気で相手したらひどい目にあいますよ』
『まるで知っているかのように言うのだな』
『ええ、知ってます』
勇輝はきっぱりと言い切った。
『アイツ本体の武器は牙と、咆哮と、ブレスの三つです。
一番強い武器をまだ見せないってことは、狙ってるってことです』
勇輝が乗るクリムゾンセラフは高度を上げ、まだ後退し終えていない部隊の救援にむかう。
『もうすぐこっちの準備も終わります。
それまで時間をかせいでください!』
返事も聞かずに勢いよく飛んで行ってしまう。
紅い鎧を着た天使の後ろ姿を、マキシミリアン団長はいまいましそうに睨んだ。
命を救ってくれたことには感謝している。だから直接不満は言えない。
『いったい何様のつもりだ』
勇輝は今でも軍に所属していない。
そのため命令系統に縛られず行動できるというメリットもあるが、部外者が戦場で出しゃばっているという状況になるのがデメリットだった。
マキシミリアン団長からすれば、指揮官である彼よりも偉そうにしている人間が勝手気ままに動きまわり、命令までしてくる状態だ。
気分の良いものではない。
それでも言葉づかいに気をつければ角を立てることなく結果を出せそうなものだ。
しかしそれができないのが勇輝の精神的未熟さだった。
今、戦場には複数の騎士団と遊撃隊、そして聖女がゴチャゴチャに入り混じって戦闘している。
人数こそ多いが、少しずつ連携にズレが生じ、不協和音を奏で始めていた。
海岸沿いで戦闘するクリムゾンセラフの姿を、邪竜はとうとう見つけた。
――見つけた! あの羽根のはえた奴! 我をこんな姿に変えた奴!
すぐにでも飛びかかってグチャグチャに噛み砕いてやりたかったが、宇宙と違って自由に飛ぶことができない。
――羽根だ。奴と同じように、我にも羽根が必要だ。
邪竜はギラリと光る瞳で戦場を見わたす。
すぐに良さそうな羽根をはやした存在を見つけた。
上空で戦っている飛行型機兵たちだ。





