邪竜VS第五騎士団
西部担当・第五騎士団と邪竜との間で、すでに戦いは始まっていた。
海戦用機兵魚人が海中から先行し、尖端に爆裂魔法をこめた銛を構えてせまる。
魚人は魚から手足がニョキニョキと生えた、奇妙な外見をしていた。足はあっても陸上戦闘は不可能で、浅瀬や海底で足場を蹴るために使われる。
よく一般人から人魚だと間違われてガッカリされるのだが、人魚ではなく魚人である。手足のはえた魚である。
実用性を突きつめたらこんな外見になったのだ。
今まさに、邪竜を相手にその実用性を見せつける瞬間だった。
魚人部隊は海中を高速で移動し、醜悪な巨体にせまる。
『魚人部隊、はなて―!!』
隊長機の号令をうけて魚人たちは一斉に爆裂銛を投擲した。
同時に魚人たちは身をひるがえし、衝撃波に巻き込まれないよう距離をとる。
完璧なヒットアンドアウェイを見せた直後、肉塊の表面で次々と爆発が起こった。
ッドドオオオン……!!!
いくつもの水柱が上がり、観測していた銀の鷹の視界がゼロになる。
「やったか!?」
司令部が歓声に沸く。
だがそんなに甘い敵ではない。
水煙が晴れると依然そこには邪竜の姿が健在であった。
『敵、損傷軽微!』
ああ……、と歓声がため息に変わった。
『もう一度だ!』
魚人隊の隊長が部下たちに再突撃を命じる。
魚人部隊の攻撃能力は確かなものであったが、しかし敵はあまりに巨体であった。
二度目の突撃も決定打にはいたらず、邪竜の進撃は止まらない。
『ならば空からも攻める、魚人隊は補給にもどれ。
巻き添えをくうぞ』
第五騎士団長、マキシミリアン・ロ・ファルコは冷静に次の手を繰り出した。
空を飛ぶ大きな鳥の群れ。
白い身体。長く黄色いくちばし。
一番特徴的なのはくちばしの下側が大きな袋状になっていることだった。
伽藍鳥タイプ。
口の中にたっぷりと危険物をため込んだペリカンの群れは、邪竜の上空に到達すると旋回して指示を待つ。
間を置かず、マキシミリアン団長は攻撃開始を命じた。
『爆雷投下!』
『んぐ!』
およそ騎士らしからぬ品のない返事だったが、これは仕方ない。
彼らと一心同体であるペリカンは今、口いっぱいに爆雷をくわえていたのだから。
『グエー!』
『グエー!』
邪竜の頭上に爆雷の雨が降りそそいだ。
ドドドドドドカドカドカドドドォォオォオオンン……!!!
まさに空爆と呼ぶにふさわしい攻撃だった。
並みの悪魔ならば百体やそこらは殲滅できるほどの火力量。
すさまじい黒煙が周囲を埋め尽くし、視界を完全に失わせる。
「こ、今度こそやったか……?」
誰もが固唾をのんで見守る中、風が少しずつ黒煙を晴らしていく。
邪竜の醜悪な肉塊が姿をあらわした。
海上から見えていた上半分が大きくえぐれ、派手に損壊している。
『効果は大です!』
観測者からの叫びを聞いて、司令部は歓声に沸いた。
しかし。
『グオオオオン……!!』
本体である邪竜の頭が、雄叫びを上げながら肉塊の中からあらわれた。
自分以外の余計な肉を盾として生きのびたのである。
しかも。
『オオオオオンンン!!』
邪竜が妙な叫び方をすると、えぐれていた肉塊が不気味に蠢きだした。
「お、おい、よせよ、やめてくれよ」
さっきからうるさい司令部の職員が何かを察してイヤイヤと首を横にふる。
この男が何か言うたびに悪いことがおこっている気がする。
今回もそうだった。
ゴボッ、ボコッ、ボコボコブジュッ!
せっかくダメージを与えたのに、内側から急速に肉が盛り上がってきて再生しようとしている。
禍々(まがまが)しい色合いの肉が増殖し元通りの球形に修復していく。
巨体、頑丈、超再生。
非常に厄介な敵だった。





