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聖女×ロボット×ファンタジー! 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう!  作者: 卯月
第四章 ボクの夢は聖女さま!

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邪竜接近

 この日、勇輝は軍の資料しりょう編纂へんさんしつにまねかれ、情報提供を求められていた。

 前回戦った空飛ぶサメについての情報を、直接狙われた立場から教えてほしいとの話だ。


「っていわれても、俺にもよく分からないんですよね……」

 

 勇輝はあの日のことを思い出して顔をしかめる。

 あの日、例のトビサメはどういうわけかクリムゾンセラフだけを狙って執拗しつように攻撃してきた。

 まったく後先あとさきというものを考えぬ狂気の突撃であり、敵は戦力を無駄に減らすばかりだったように思われる。

 そもそもたいして強い個体でもなかった。

 ただデカくて羽がはえただけのサメである。

 武器は大きな牙のはえた口で噛みつき攻撃。それだけ。

 大きなジャンプで跳びかかってくるが、空中での動きは単調なためむしろ戦いやすい。

 そのくせ向こうからドンドン跳んでくるため、待ちガイルに徹して対空で墜とすのが最善だろう。


「……ガイルとは何ですか?」

「ああいや、相手の出方を見て対応するカウンター戦術のことです」


 勇輝は両手をふって職員さんの疑問をごまかした。


「それでなんで俺だけを狙ってきたかっていうのが、一番重要だと思うんですが」

「はい、そうですね」

「肝心のそこが、まったく分かりません」

「……なるほど」


 紙とペンで記録をとっていた職員さんの手が止まった。


「たとえばですよ、あの場でもっとも強かったクリムゾンセラフを集中的に狙った、という理由では?」

「それも考えられますけど、わざわざおかにまで突っ込んできますかね?」

「……たとえば仲間意識の強いタイプの悪魔ディアブルで、仲間を討たれた恨みからしゃにむに追いかけてきたとか」

「まあ無くはないですけど、魚が陸にねえ……」


 悪魔ディアブルは人間の悪意や敵意が固まってできあがった怪物である。

 そのため自然の摂理せつりに反した生態をもつことはままあるが、魚は魚らしく、鳥は鳥らしく、獣は獣らしく行動するのが基本だ。

 動けなくなるのを承知で陸まで追いかけてくる魚というのは、やはり異常である。


「ご協力ありがとうございました。資料作成にいかさせていただきます」


 職員さんは記録した用紙を封筒におさめ、終了を口にした。


「こんなもんで役に立てましたか?」

「もちろんです。すべての悪魔ディアブルが論理的な行動をとるわけではありません。

 それぞれの機兵から確認した映像記録を見ても、あの鮫は直情径行なタイプとみて間違いないでしょう」

「そうかなあ……」


 礼儀正しく退出をうながされて部屋を出る勇輝。

 だが職員さんの分析には首をひねる。

 あの異常行動は感情や本能によるものではなく、何者かに命令されていたのではないかという気がしてならない。

 その何者かとは誰だ、と問われると答えられないのだが。


 うーん。

 と悩みながら軍本部から出て、帰るために指輪からクリムゾンセラフを呼び出した、その時だった。


『ユウキ様』

「うん」


 セラがいつものように右手を差し出しながら勇輝の名を呼ぶ。


『軍司令部から緊急通信が来ていますが』

「へっ?」


 勇輝は愛機の手の上で後ろを振り返った。

 今、軍の施設内にいる。司令部はその奥だ。


「すぐそこじゃん」

『はい、すぐそこから緊急通信です』


 変なことするなあと思いながら中に入り、応答する。


「へーい、こちら相沢勇輝~」

「急で申し訳ありませんユウキ、すぐにこれを確認してください」


 水晶スクリーンに現れたのは通信使のお姉さんではなく、ヴァレリア長官その人だった。

 普段は豪華なイスに座ってデンと構えているだけのお人が、何をそんなに急いでいるのだろう。


「どうしたんです、一体?」


 なにはともあれ送信されてきた動画データを開いて見る。

 一瞬で勇輝の顔が強張こわばった。


 海上を猛進してくる巨大な肉の塊。

 その塊からはクジラの頭がはえていた。

 サメの頭がはえていた。

 烏賊イカの触手がはえていた。

 その他じつに様々な生物の特徴を同時にそなえ、あらゆる色がグチャグチャに混ざりあったおぞましい体色をしていた。

 おそらくは海に住む数々の生物を吸収し、己の力として寄せ集めたのであろう異形の怪物。

 そんなグチャグチャの気持ち悪い海産肉団子の中に、ひとつだけ海のものではない生物が混ざっていた。

 他の生き物たちがあらぬ方向に顔を向け、生きているのか死んでいるのかさえハッキリしない様子なのに対し、《そいつ》だけは生気のある眼差まなざしで進行方向を真っ直ぐに見すえていた。

 間違いなく本体は《こいつ》だと確信が持てる。その他の生物は《こいつ》の犠牲者たちだ。


『ユウキ、貴女に見せていただいた映像に似た怪物がいましたね』

「はい」

 

 見間違えるはずがない。

 あれはエウフェーミアたちが十年もかけて滅ぼしたはずの邪竜だ。

 外宇宙からやって来た。どこか遠くの世界を滅ぼし、あてもなく漂流してきた邪悪の化身。


「まだ生き残りがいやがったのか……!」

『ユウキ様、あれを討伐するのは我々の義務だと思います』

「ああ、だけど……」


 勇輝は恐怖心で腹の底が冷たくなるのを感じた。

 地上にはエウフェーミアがいない。

 十二天使もいない。

 自分とセラしかいない。

 たった一匹の生き残りとはいえ、今の自分に勝てる相手なのか。

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